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二人で湯船につかり窓から月を眺めた 。
月に兎がいると教えてくれたのは晋助だったな、と思い出す。
あの時も一緒に湯船から月を見ていた。


「夜兎の人は私になつくんだって」
「そうらしいな」
「夜兎って強いんでしょ 。ねぇ晋助、私を使ってね」
「‥」
「夜兎が味方についたらいいよね」
「使わねぇよ、馬鹿」
「なんでよ」
「‥普通の女でいろ」
「せっかく力になれること見つけたのに」
「お前ェの助けなんざいらねぇよ」


晋助は笑った。
月の灯りがその笑顔を優しく照らす。
なんて綺麗な人なんだろう。

皆の前に立って、己の信念の限り突き進む。
私の好きな人はそういう人だ。
後ろなんて振り向かない。何の取り柄もない私はしがみつくのにやっとなんだ。

月光族の特性、夜兎よりも晋助がなついてくれる力だったら良かったのにな。

そう思いながら晋助の優しい笑顔に私も笑った。



「名前」

ふいに名前を呼ばれる。
こうやって晋助にちゃんと名前を呼ばれるなんて珍しい。
びっくりして、うつ向いていた顔をバッと上げた。


「その瞳、綺麗じゃねぇか。悪くねぇ」


晋助はポツリとそう言って私の頬に手を添えた。


「‥っ」


本当に、私が晋助に敵うことひとつもない。
もうその言葉ひとつだけで、あんなに悩んでいた月光族であるということがどうでもよくなった。
きっとこれでこれからも鏡の前で笑える。

「‥ありがとう」


いつも私は晋助の言動に驚かされてばかりだ。
晋助の優しいキスを受けながら、いつか何でもいいから自分も晋助をびっくりさせてみたいな、と少し邪な事を考えた。



つづく


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長夢
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