日向くんからの強い意思を感じて、狛枝くんから逃げるようにビーチを離れた。ずっとパラソルの下にいて気が付かなかったけれど、結構日が高くなってきている。
一応南国にいるのに、日焼け止めとか塗った記憶ないし……ちょっとまずいかもしれない。
そう考えて、ひとまず近くにあった空港に向かうことにした。
恐らく免税店とかに化粧品売り場があるだろう、……そう思っていたんだけど。
「ないな」
そういったものは、さっぱりなさそうで。
代わりに目に入った、でかでかと掲げられた「ようこそ楽園へ」の横幕の文字にひっそり首を傾げた。
そういえば、私は今どこにいるんだろう?
そんな至極まっとうな疑問に辿り着いたとき、カツ、とブーツがロビーの床を叩く音がした。
「おい、……貴様、名乗れ。偵察の者か?」
驚いて、そっと振り返る。ひと目見て、 理解した。
「美澄叶。あなたは……ただ者じゃ、ないよね」
それは、並々ならぬものを感じたから。……彼の、ファッションへのこだわりとか。
紫のストールがちょっと長いし季節感はないけど、そんなの暑苦しい制服姿の私だって一緒。
それよりも、長い学ランがゴテゴテのブーツとマッチしていてとびきり素敵。しゃらりとついた蛍光色のピアスを始めとしたアクセサリーも、
「ほう……貴様、判るのか。ならば尚更警戒に値するというもの……! 何が目的だ」
コンセプトがしっかりしていて、統一感のあるV系ファッションは嫌いじゃないな。言っていることはよくわからないけど。
私もこんなシンプルな制服じゃなくって、ちゃんと着替えたくなってくる。
「その服、いいね」
「……質問に答えろ……! 俺様は絆されんぞ……!」
好きなブランドのリゾートコレクションを思い出しながら伝えても、どうやら変なスイッチを押してしまったようで、うまく伝わらなかった。
「……あのさ、別に敵とかじゃねーだろ、そいつ」
目の前の男の子に睨みつけられていると、後ろから姿を現したのはツナギ姿の男の子だった。
「確か、気ぃ失って寝てたやつが二人ぐらいいただろ? そのうちの一人だろ。澪田が付き添ってた」
誤解を解いてくれている?
「……お前らの会話、ツッコミ不在でソワソワするわ……」
「美澄叶、超高校級の美容学生。あなたは?」
「……左右田和一だけど。超高校級のメカニックって呼ばれてんだ」
メカニックか、なるほど。
通りで、ツナギか。油で汚れていたり、ほつれもあったりするところは私的にはいただけないと思っていたけど、彼のワークウェアなのであれば納得する。
それに……
「そ、そういえば美澄はなんでここに?」
「……ちょっと探し物してて。日焼け止めとか売ってそうな場所ってわかる?」
「へぇ、……さすが美容学生って感じだな……」
「ふむ……十分に探索はできていない故不確かではあるが……先刻、万物を品物として扱いし商人の居所を噂する女子を、この邪眼により検知したぞ」
「…………そう、わかった」
「……絶対わかってねぇよな? スーパーだよ、スーパー」
「……ありがとう、また行ってみるね」
しばらくここで涼んでいるのも悪くないかもと思ったけれど、落ち着かない様子の左右田くんへ視線を向ける。
「な、なんだよ……」
女の子が、苦手なんだろうか。それに、私、結構遠巻きにされることも多かったし、絡みづらいのが本音なのだろう。
少し悲しい気持ちになりながら、そわそわと浮ついた様子の彼を見て「ちょっと行ってくる」と空港を後にした。
「はあ、なんか無駄に緊張したわ……」
ほら、やっぱり。……まあ、私もジロジロ見てしまったから、申し訳ないとは思う。
ここに閉じ込められるのがいつぐらいの時間になるかわからないけど、少しは人と交流するのが得意になっていないといけないな、とひっそり決意した。