14.


※五条さん視点です



「あれ、再来週は土曜日休みになってる。珍しいね」

「実は断れない予定が入っちゃって…」

「断れない予定?」

 食後のコーヒータイムに名前の出勤希望日を確認するというのは二週間に一度の恒例となっていた。
確認すると言っても大体曜日は決まっていて形だけのものだったが、普段と違うことに気付き首を傾げる。

土曜日に休みたいなんて、二週間前合コンだと言って休んだ日以来だ。


「また会社の先輩に誘われちゃって…」

「まさかまた合コン?」

「いやぁ…合コンでは無いんですけど…」

 歯切れの悪い返事に苛立ちを覚える。
その苛立ちは歯切れの悪さにではなく、言い淀むような疚しい何かがあるのか、ということに向けてだったが、そもそも俺達の関係は家主とハウスキーパーというだけでプライベートに干渉するような仲ではない。

そう理解していても話を流してやるつもりは無く、視線で言葉の続きを促した。

「先輩があの合コンで知り合った人と良い感じらしくて、先輩とお相手と、私ともう1人あの場に居た人の4人で呑みに行こうって誘われて…」

「えー、何それ。良い感じなら2人で行けばいいのにね。巻き込まれちゃって可哀想」

わざと棘のある言い方をしたのは、名前に肯定して欲しかったからかもしれない。
二週間前のように、"めんどくさい"と言って困った顔で笑うことを期待していたのだ。

しかし、苦笑した名前の口から出た言葉は、俺の浅はかな願いとは真逆のものだった。

「でも、思ってたより楽しかったんですよね。大学生の頃なんかは人並み程度に飲み会に参加してましたけど苦手だったので、今回も憂鬱だったんですけど…いざ話してみたら皆さんとても良い人で。だから、実はちょっぴり楽しみだったりします。」

「……ふぅん。それなら良いんだけどさ。」

名前ちゃんのご飯、週末の楽しみなのになぁ。と、大袈裟に悲しむ身振りを交えながら話す俺は名前の目にはふざけているように映るのだろう。

日曜日の夜はご馳走様作ります、と言って軽やかに笑う名前は、俺が心の深いところで粘ついた感情に支配されているなど知る由もない。




「え、待って待って○○商事で働いてる恵の友達って虎杖悠仁?」

『ハァ……そうです。名前まで知ってんすね。ていうか、今度は何考えてんのか知らないですけど虎杖には手、出さないでくださいよ』

「大丈夫、大丈夫。元々虎杖クンに何かするつもりなかったし。」

『……なら良いです。話はそんだけです。』

「相変わらず素っ気ないねー。たまにはウチにも遊びおいでよ、昔みたいにさ。」

『……気が向いたら。じゃあ、失礼します。』

「はいはーい」

 スマホのディスプレイを消そうとして、今しがた通話を切ったばかりの男の名前でメッセージが送られてきたことに気付きタップする。

『さっき言い忘れましたけど、五条さんが狙ってる女性と虎杖はただの先輩後輩でそれ以上の関係は無いですから。くれぐれも暴走しないでくださいね。あと、会社の近く彷徨くのも辞めてください』

 相変わらず細かい男だ。
虎杖に何かするつもりはないと言っているのにこの必死さ。
そこまで必死にならなくても、と苦笑していると、向かいのソファで紙の束に目を通していた傑が顔を上げた。


「恵、何だって?」

「ダチに手出さないでください、だってさ」

「へぇ、あの恵がねぇ。」

「会社の近く彷徨くのもやめろだってさ。どんだけ心配なんだよ、何もしねぇつってんのに」

「悟と関わりがあるってバレるだけでマズイんだろ」

「ハァ?何で……あ。」

 俺と繋がりがあるだけでマズイって、流石に失礼じゃね、と思ったが、少し前に名前が話していたことを思い出した。

「そういや、ヤクザと関わってんのバレて後輩がクビになったとか言ってたな」

「そういうこと」

 自分達の仕事がどんなもので、普通の世界で暮らす奴らにとってどんなイメージを持たれているのか、そしてどんな扱いを受けているのか、そんなことは当然理解している。

"暴力団関係者お断り"
こんな文言は親の顔より見てきた。

とは言え、今どき分かり易い極道なんてほとんど存在しない。

自分の親父、もしくはそれより上のVシネマの世界を地でいっていた世代より下は、パッと見冴えないサラリーマンのようなヤツだって多い。

つまり、一般人にバレることは無い。
飲食店だって商業施設だってお断りの文言があれど実際追い出されたことなんて一度も無いし、そもそも俺達の顔を知ってる奴なんてコッチの世界に大なり小なり関わりがある奴だ。

「あんなお堅い会社に俺の顔知ってるヤツが居るとは思えねーけど」

「そうとも限らないさ。それに悟は目立つ。一度見たら早々忘れられないインパクトがあるからね」

「グッドルッキングガイすぎるのも辛いモンがあるな」

「調子に乗るなよ」

 俺と傑は基本的に目立つことはしない。
みかじめ料の回収やシマの見回りなんかは基本、若いヤツらの仕事で俺達が出る時はいよいよという時だけ。

夜の街に出るのは仕事半分遊び半分だ。
繁盛しているか、怠っていないか、不正はしていないか。
"見られている"という緊張感を店に与えつつ、良い女と楽しい時間を過ごす。

それだって必ずVIPルームしか使わないし、俺達はひっそりこっそり生活している。

だから恵には安心してもらいたい。
アイツらの会社に俺のことがバレてクビなんてことには万が一にも──



「……やば。良い事思い付いちゃった」


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