拝啓、冨岡義勇様

また振り出しに戻ってしまった。私は一人になった。寄り添ってくれた義勇も、笑いかけてくれた錆兎ももういない。

「辛いだろうが、お前はここにいなさい」

稀血で女とくればすぐに鬼に狙われてしまう。おまけに体も弱い。近頃は鬼の被害も増え、山を降りては生きていけないだろうと鱗滝さんは言った。死んでしまう勇気もなくて、私はそれに従った。

死んでいるのか生きているのかわからない、淡々と過ぎていく毎日。義勇の身を案ずることだけが、私の生きる理由だった。時々義勇に手紙を書いた。時効の挨拶を書く、元気でいるのか心配だと伝える、怪我はしてないか、食事はとっているのか、夜は眠れているのか。一通り心配事を書き連ねたら、あとはただ、ひたすらに会いたいと願う。そうして最後は涙で文字が滲むのだ。そんなこと、願うことすら許されないことはわかっている。

手紙を書いたらいつも漆塗りの小箱に仕舞った。出せない手紙の分だけ、想いが募っていくようだった。

月命日には必ず錆兎のところへ花を手向けに行き、手を合わせた。手向ける花が変わっていくことだけが、私に季節の巡りを教えてくれていた。錆兎がそうしてくれているようだった。



義勇がふらりと、何の前触れもなく狭霧山に帰ってきたのは、錆兎の命日の前の晩だった。義勇はうんと背が伸びて、私の知らない人みたいだった。鱗滝さんは立派になったと義勇を見て大層喜んだ。

「錆兎の命日だ」
「うん」
「…小さくなったみたいだ」

義勇の大きな手が私の頭を撫でた。あんなに会いたかった義勇が目の前にいるのに、錆兎への罪悪感で押し潰されてしまいそうだった。

無口な義勇でも一年という月日は長く、夜になっても話が途切れることはなかった。義勇の話すことは私の知らないことばかりで、義勇が知らない何かになってしまったような気がして、少し怖かった。

次の日は三人で錆兎の墓前で手を合わせた。義勇が右隣に並んで、錆兎の着物が優しく重なり合った。元は一つだった亀甲柄のそれは、どこからが私でどこからが義勇かを曖昧にさせた。


(201230)