相応しくない

私たちの手紙のやりとりは、細く長い糸のように続いていた。私の毎日はずっと変わらなかった。義勇の手紙を待ち、義勇が今日も無事に一日を終えられるよう願う。月命日がくれば錆兎に手を合わせる。義勇は毎年錆兎の命日に帰ってきて、私たちは一緒に錆兎を偲んだ。

季節が巡ると、私も義勇も同じ分だけ歳を取った。だけど、私の中の錆兎は十三の少年のままだ。あの夜の錆兎は、私に何を伝えたかったんだろう。最終選別から帰ってきてくれていたら、何を話してくれたんだろう。あの日のことは昨日のことのように思い出せるのに、あの日の錆兎が何を考えていたのかはわからないままだった。

「義勇?」

その日は錆兎の命日でもないのに、突然義勇が帰ってきた。私は驚いて義勇に駆け寄った。どこか怪我でもしていないか心配になったけれど、そうではないようだった。

「任務で近くまで来たんだ」
「鱗滝さん、今用事で出てるの」
「そうか」

義勇は懐から手紙を出し、鱗滝さんに渡して欲しいと私に預けた。

「泊まっていかないの?」
「錆兎に手を合わせたらもう行く」
「そう」

義勇が先に歩き出したので、私も慌てて義勇の後を追った。それに気づいた義勇が、少し歩調を緩めてくれた。墓前には、数日前の月命日に私が手向けたりんどうが置かれていた。

「柱になったんだ」

手を合わせたあと、義勇がぽつりと呟いた。私に言ったのか、錆兎に言ったのか、義勇はじっとりんどうの花を見つめていた。

「錆兎の方が、相応しかったと思う」

その言葉を錆兎が聞いたら何て言っただろう。きっと錆兎は、義勇のこと叱ったような気がする。義勇が柱に辿り着くまでにどれだけ辛い思いをしてきたか、それは容易く想像できる。錆兎が相応しくて義勇が相応しくないなんて、そんなおかしな話はないはずだ。だけど、私にはそれをうまく言葉にすることができなくて、ただ義勇の手を握ってあげることしかできなかった。義勇はごめんと呟いた。

私たちは大人になった。だけど心は、十三の春のまま。錆兎がいなくなったあの日から、私たちは一歩も動けないでいた。


(210110)