列車にて

義勇の手紙には、炭治郎が任務で大怪我をし、もうふた月も意識が戻っていないことが書かれてあった。慌てて手紙の内容を鱗滝さんに伝え炭治郎のお見舞いに行きたいと伝えたが、鱗滝さんは首を縦には振らなかった。

「蝶屋敷までは遠い。お前の体力では無理だ」
「でも、」
「義勇が大丈夫と言っているんだ、心配するな」

義勇の手紙の結びに書かれた、何の根拠もない大丈夫という言葉に、この時ほど義勇の言葉足らずを恨んだことはなかった。何度鱗滝さんにお願いしても、義勇の言葉を信じなさいの一点張りで、結局鱗滝さんのお許しは出なかった。

次の日は朝から診療所の手伝いの仕事があったので、朝から狭霧山を出て麓の方へ出かけた。道すがらふと、この先の大きな街まで鉄道が敷かれたことを思い出した。以前炭治郎が同じように任務で怪我をしたときに、今は蝶屋敷でお世話になっていると手紙に大まかな場所が書かれてあったから、近辺まで行ければ問題ないだろう。夜までに間に合えば、きっと大丈夫だ。そう思うともう足を止められなかった。いけないと分かってはいたけれど、いつもだったら曲がるはずの小さな祠を通り過ぎ、駅へと続く大通りへの道を小走りに駆けて行った。



初めて見る駅というものに、人の多さに思わずため息が漏れた。この列車に乗るためにはどうしたらいいのか、右も左もわからないまま辺りを見回していると、綺麗な女性に声をかけられた。歳の頃は私と同じくらいか、少し上のようだった。

「私も近くまで行きます、よろしければご一緒に」

その人に言われるがまま切符というものを買い、どうにか目当ての列車に乗ることができた。大きな車体が黒い煙を後ろに散らしながらレールの上を走り出す。ほっと胸を撫で下ろし、女性にお礼を告げた。

「本当に助かりました」
「いいえ。ところで、つかぬことをお聞きしますが、その羽織と同じものを着た人を以前に見たことがあるのです。もしかして、鬼殺隊の方ですか?」

話を聞くと、その女性の生家は藤の家紋の家を営んでいるらしく、昔この羽織と同じものを着た青年が時々やってきたのだという。あまり口数の多くない青年で、少し心配していた、とも。その後女性は嫁いでしまったのでその青年を見かけることはなくなったけれど、私の羽織を見てふと思い出したのだと言った。

「私の幼馴染です」
「まあ、そうだったんですね。それで、その方は今もお元気でいらっしゃるのかしら?」
「はい、元気にやっております」

そう返事すべきは義勇なのだけれど、私はとても嬉しかった。私の知らないところで誰かがこうして義勇のことを気にかけてくれていること、今も元気だと答えられること、それは義勇が生きているからだ。

女性は蝶屋敷までの大まかな道筋を教えてくれたので、列車を降りてからは迷うことなく蝶屋敷に辿り着くことができた。

「…ごめんください」

門を潜って玄関を覗いてみるけれど、誰かがいるような雰囲気はない。当てが外れてしまったのだろうか。もう一度声をかけようか、それとも庭の方へ回ってみようか、頭の中で迷っていると、ぽんと誰かが私の肩を叩いたのだった。


(210227)