5月はこいのぼり

少し懐かしい雰囲気のするアーケード街を歩いていると、不意に蜜璃ちゃんのことを思い出した。確かこの先に蜜璃ちゃんご贔屓の老舗の和菓子屋さんがあったはず。そう思って足を進めると、レトロな喫茶店の隣に小さな和菓子屋さんを見つけた。

苺大福や桜餅の季節はもう終わってしまったのかなと店内を覗いてみると、たくさんの和菓子が並ぶショーケースの上には小さなこいのぼりが置かれていた。そっか、そんなシーズンか。周囲に小さな子どももいない大人の私にとって、子どもの日というのは全く縁のないイベントだ。そして、ショーケースの一番上の段の真ん中という特等席に陣取っていたのは、濃い緑の葉に包まれた白い柏餅だった。

「すみませーん!」

その柏餅を見ていると、入り口の方から聞き覚えのある声がした。顔をそちらに向けてみると、知った顔の声の主に私は思わず声をかけた。

「炭治郎くん!」

名前を呼ぶと人懐っこい笑顔を向けてくれた。手に持っていた予約票を店員さんに手渡して、炭治郎くんはこんにちはと元気に挨拶してくれる。

「おつかい?」
「はい!子どもの日はここの柏餅を食べるのがうちの恒例行事なんです」

なんと、このお店は甘露寺家だけでなく竈門家のご贔屓でもあったとは。とっても美味しいですよ!の炭治郎くんの一声に負け、私は柏餅を四つ買った。店員さん顔負けの営業力である。



「それで柏餅なのか」
「はい!美味しそうでつい」

義勇さんの家に着いてお土産にと和菓子屋さんの袋を手渡すと、中を覗いた義勇さんがどうして柏餅なんだと尋ねてきた。私がお店で炭治郎くんに会ったことを説明すると、返事はなかったけれど納得はしてくれたようだった。

ついでに買ってきたお茶っ葉であったかいお茶を準備する。和菓子といえば絶対に熱い日本茶がいい。

「それに今日は男の子の日ですからね」
「俺は子どもじゃないんだが」

義勇さんはそう言って少し不服そうな顔をしたけれど、早速柏餅の一つを手に取って食べる気満々だ。柏の葉からは爽やかな青い匂いが漂ってくる。なんだか懐かしい気持ちになってしまうから不思議だ。

「義勇さん美味しい?」

義勇さんからはやっぱり返事はなく、でも黙々と柏餅を頬張っていた。二つともぺろっと平らげて満足そうにお茶を飲む義勇さんの口の端っこについた餡子を見て、十分子どもみたいだと可笑しくなってつい笑ってしまった。


(210501)