風柱と一服

「不死川さーん、こんにちはー」
「裏から回れェ」

あの甘味処をご贔屓にしている人を、私は蜜璃ちゃん以外にもう一人知っている。裏の木戸を開けると、不死川さんが縁側に座っていた。三つある風呂敷包の内の一つを広げて、一番上に重ねておいたおはぎを取り出す。

「またすげぇ量だこって…」
「おはぎ買ってきましたよ」

あの日も私は蜜璃ちゃんのお使いであの甘味処に来ていた。すると私の前でおはぎを買う不死川さんに出会したのである。まるで鬼でも見るかの形相で睨まれ、誰かに言ったら殺すとまで言われた。命が惜しい私はもちろん誰にも言わないし、時間があるときは代わりにおはぎを買ってくると申し出た。以来すっかり茶飲み友達である。

「宇髄さんのところに行ってたので、そのついでです」
「宇髄ィ?珍しいな」
「あぁ…まぁ…」

勝手知ってる人の家、お茶の準備をしながら宇髄さんのところを訪ねた理由を説明する。不死川さん家でおはぎを食べると何が嬉しいかって、この美味しい玉露が飲めるところだ。

「あ!おはぎ二個ずつですよ!」
「あァ?うっせぇな…」

自分のお皿に三つ目のおはぎを乗せようとした不死川さんを見て怒ると、渋々私のお皿に二つ乗せてくれた。人相のわりにいい人なのだ、不死川さんは。

人は、秘密を共有すると仲良くなれる、というじーちゃんの言葉を思い出す。鬼殺隊に入る前、山暮らししかしたことがない私を慮って、じーちゃんは人付き合いの何たるかを色々と教えてくれた。もし、私と冨岡さんも何か秘密を共有できたら、今以上に冨岡さんと仲良くなれるだろうか。冨岡さんはいつも無口で無表情で、だからなのか、もっと冨岡さんと仲良くなれたらいいのにと、冨岡さんと話していると時々そう思ってしまう。

(あれ、何で私冨岡さんのこと考えてるんだろう…)
「んで、その恋とやらは見つかりそうなのか?」
「はい!宇髄さん曰く、ぶわーっとして、ぐわーっとくるのが恋らしいので、今それ待ちです!」

不死川さんはものすごく冷めた目で、お前は本当に馬鹿だなと言った。呆気に取られる私を尻目に、湯呑みのお茶をずずっと飲み干す。

「不死川さんはありますか?そういう、ぶわーっとしてぐわーっとしたこと」

そう聞くと、不死川さんは手をひらひらさせながら寝転がった。

「稽古ならいつでもつけてやるけどそういうのは勘弁」
「そうですか…」
「胡蝶にでも聞いたらどうだ?あいつならぽんこつなお前の頭にもわかりやすく教えてくれんだろ」
「なるほど!」

確かに、しのぶさんは賢くて綺麗だし、恋とはなんたるかをよく知っているかもしれない。

「あっ、そろそろ帰らなきゃ!」

そうだった。そろそろ蜜璃ちゃんのおやつの時間だ。おいしいお菓子を持って帰らないと空腹で機嫌を損ねてしまう。

「不死川さんまたおはぎ持って来ますね」
「おー」

不死川さんは満足そうに寝転がったまま目を閉じていた。


(201203)