「わぁ、きれいだなぁ」
青と白のコントラストがただただ美しい海沿いの街並み。サントリーニ島というらしい。さっきのテレビ番組の景色が忘れられず覚えたての島の名前を検索してみると、すぐさま画面が海の青と建物の白でいっぱいになる。ベッドにうつぶせのままその景色を見ていると、同じように隣で寝転ぶ義勇さんがひょいと私の手元を覗き込んだ。
「サントリーニ島っていうところです。きれいですよね」
「サントリーニ島はマフィア発祥の地だな」
「マフィア?!」
突拍子もない物騒なワードに手の中の景色が途端に表情を変えてしまったようだ。私が画面をスワイプして閉じると、義勇さんが慌てて昔の話だと付け足した。
「大丈夫です、どっちにしたって私には縁のないところですしね」
パイル地の薄手のブランケットを口元まで引っ張りあげると、微かに義勇さんの家の柔軟剤の香りが漂ってくる。目を閉じてその香りを吸い込むと、義勇さんが部屋の電気を消し、ブランケットをめくって唇の端にキスをしてくれた。
「サントリーニ島は無理だが…どこか旅行にでも行かないか」
「ほんと?」
パッと目を開けると暗闇でもその輪郭がよくわかるほどに義勇さんの顔がすぐ近くにあって、思わずドキッとする。
「八月なら、まとまった休みが取れると思う」
「私も、たぶん大丈夫」
そう返事をしながらも、頭の中は一瞬で妄想で埋め尽くされる。八月なら海沿いに出かけて思いっきり夏を楽しむのもいいし、避暑地でのんびり過ごすのも悪くない。美味しいものをたくさん食べて、二人で歩きながら綺麗な景色をたくさん見て。
そうだ。せっかくの旅行だからあの水色のワンピースを持って行こう。少し髪の色を変えるのもいいかもしれない。
「義勇さんっ」
義勇さんの腕の下に潜り込んで胸の辺りに擦り寄ると、まるで小さな子どもをあやすみたいに背中をとんとんと優しく叩いてくれる。
「私今日は楽しみで眠れないかも」
「気が早いな」
そうは言っても頭が考えることをやめてくれない。次から次へと頭の中を駆け巡る旅先の景色も旅の準備に、心が勝手に弾んでしまう。
きっとどこへ行ったって、義勇さんと二人なら楽しいのだろう。そう思うと私の妄想は止まらず、明日が休みをいいことに、私の止まらないお喋りに義勇さんは遅くまで付き合ってくれた。
(210703)