01
「……現実、なんだよねぇ。」
ポツリとつぶやいた声が、テレビから流れる音をすり抜けるように部屋に響いた。
3か月。
世界が変わったと認識してから3か月が経過し、ようやく現実を受け入れつつあった。
受け入れざるを得なかった、と言った方が正しいのだが。
朝テレビをつければ、漫画の中でしか存在しなかった芸能人が出ているし、会社に行く途中に見る駅名は見覚えのない駅名が増え、知っている駅名が消えた。
乗る電車は東都環状線に名前が変わっているし、3か月そんな中で生活していれば受け入れざるを得なかった。
さらに言えば、慣れである。
「では、次のニュースです。昨夜、東都駅から800m離れた住宅で、火災が発生し男性一人の絞殺死体が発見されました。」
世界が変わってもこういった事件は相変わらず起こる。
それだけは変わらないんだなぁ、とぼんやり他人事のようにニュースに耳を傾けた。
「消防や警察によりますと、近くの住人から建物から煙が出ていると通報があったということです。この火災で、この家に住む50代の男性が心肺停止の状態で見つかり、その後病院に搬送されましたが死亡が確認されました。男性は一酸化炭素中毒で亡くなったかと思われていましたが、首に絞められたような跡があり、警察は殺人事件として捜査を進めていく方針です。」
アナウンサーが東都駅であった殺人事件について読んだ。それに対して、大学の教授を務める年配のコメンテーターが鼻で笑いながらコメントを出す。
「死因は首を絞められたことによる窒息死であるようです。火災で証拠を消そうとするも、近隣住民に発見されてしまい失敗に終わってしまったようですね。」
証拠を消せなくて残念でした。と言わんばかりの言い方に少々アナウンサーが眉を顰めた。
「そのようですね。火はすぐ消し止められ殺人現場には証拠もまだ残っているようです。警察は捜査を行っているそうですが、証拠が少なくどうやら難航しているようです。沖野さん、どう思われますか?」
「証拠が残っているのであれば、犯人の手がかりは必ず残っている筈ですよね。警察の捜査を期待して事件が早く解決することを願っています。」
「証拠が残っていようが、警察がもたもたしていたら犯人に逃げられてしまうでしょうね。日本の警察にはしっかりしてもらいたいものです。」
再びコメンテーターが不穏な態度と発言をする。
これは放送事故になるんじゃなかろうか。
いくらなんでも、公で言う発言ではない。
「……警察は早期解決のために、全力で捜査に当たっているそうですよ。」
アナウンサーも、どうフォローしていいか悩んでいるようだ。
そこで閃いたのか、渋面から急にニコニコと表情を変え、ヨーコちゃんに質問をする。
「沖野さん。そういえば、今話題の《眠りの小五郎》をご存じですか?」
突然の発言に飲んでいた白湯を危うく噴き出しかけた。
急に出てきた《眠りの小五郎》というワードに反応してしまう。
世界が変わっても事件は相変わらず起こるだなんて、悟っている場合ではなかった。
「はい、よく存じ上げています。」
ニコリと笑ったヨーコちゃんが、憎々しく見えた。