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 《ポアロ》と言われて真っ先に思い浮かぶのはなんだろうか。
 かの有名なアガサ・クリスティー作の推理小説に登場する《エルキュール・ポアロ》を思い浮かべる人もいるだろう。推理小説が好きな人は真っ先に思い浮かべるかもしれない。
 けれども、多くの日本人の場合《ポアロ》と言われて思い浮かべるのは、某探偵ラブコメ漫画に出てくる《喫茶ポアロ》に違いない。
 私自身ポアロと言われて真っ先に思い浮かべるのは、エルキュール・ポアロよりも見た目は子供頭脳は大人な漫画に出てくるポアロである。
 偏見もあるだろうが、たいていの場合がそうだと思っている。
 何より東都環状線や沖野ヨーコなんて名前を聞いてしまったら、あのポアロしか思い浮かばないだろう。

 「……来てしまった。」

 とは言っても、元々ここに来る事が目的だったので「来てしまった」という表現は少々おかしい。
 それでも、実際に目の前に実物があるのと想像しているのとでは、やはり違うものだなと思った。
 大きなガラスに書かれたポアロの文字と、こぢんまりした扉。二階を見上げれば物語のメインキャラクターたちがいるであろう毛利探偵事務所。
 ポアロの右隣には、いろは寿と書かれたお寿司屋さんもある。
 原作漫画は見たことはないが、アニメはチラホラ見ていたのでそこそこ内容は知っている。
 だからポアロには、安室透か榎本梓がいるはずだ。

 これが私の妄想や誰かのドッキリでないのなら。の話だが。
 
 1つ、大きなため息を吐く。
 最近買った黒いヘッドフォンから陽気な音楽が流れてくるが、私の心情はそんな陽気なものとは真逆だ。

 世界が変わり、その事については理解もしたし慣れもした。
 けれど、実際に見て見ないと信じられない、信じたくないという気持ちもあった。
 それなら登場人物をこの目で見れば、一つ納得できるのではなかろうか。
 そう思い立ったが吉日。意を決して登場人物に出会えるかもしれない場所に行ってみようとポアロへと足を運んだ。
 あとは、少しの好奇心もある。
 
 いざポアロの前に立ってみると、本当に入ってもいいのだろうかと思ってしまう。
 原作に介入する気もないし、そもそも関わろうとも思っていない。
 それなのに、関係した場所に来てしまったのは間違いではなかろうか。
 もんもんと考えに考えた末に、ええい、ままよ、と下げていた視線を上げる。
 よし、と意気込んで足を進めようとしたところで、洋服の裾を引っ張られる間隔に背後を振り向いた。
 
 そこにいた人物に思わず目を見開きかけて、咄嗟に平静を装う。
 恐らくヘッドフォンをしていた為、声が聞こえなかったために彼は、私の洋服を引いたようだった。
 慌ててヘッドフォンを外すと、彼は疑問を素直に口にした。

「お姉さん、お店に入らないの?」

「あ、えっと……入るけど。」

 しどろもどろになってしまったかもしれない。
 そんな私を彼は不審そうな目を向けた後、にっこりと笑ってこう言ってのけたのだ。
 
「……ふぅん。じゃあ、僕と一緒に入ろう!」
 
 いいえ、と拒否するその前に、小さな眼鏡を掛けた少年は私の服を引っ張った。



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