上司とか部下とか関係ない
裸になって、鏡を見ると本当にひどいものだった。ごしごしと全身を洗い流し、痕を見なかったことにする。どうせ消える。大丈夫。もうこれ以上降谷さんにも心配を掛けたらダメだ。お風呂をでたら明るくしないと。
私は頬をパンっと叩きシャワーを止めた。恐らく降谷さんの物であろう着替えは、私が着るとかなり大きかったけど何もないより全然ましだ。寧ろ着ることによって降谷さんの匂いに包まれてすごく安心した。
「降谷さん、お風呂ありがとうございました。」
「…ああ。痛いところとかないか?」
「大丈夫です。御心配お掛けしました。」
「すまないな、そんな服しかなくて。」
「…どんだけ降谷さん洋服のサイズでかいんすか。びっくりですよ。」
そう言えば降谷さんは少し驚いてこちらを見た。そりゃそうだよね、さっきまで喋る気力すらなかったんだもん。でも私のその言葉を聞いて降谷さんは少し笑った気がした。
「何か飲むか?」
「あー…お水頂けますか?」
「ああ。飯は?」
「大丈夫です。今食べたら吐きそう。」
「そうか。ほら、水。」
「ありがとうございます。」
私はペットボトルを受け取りお水をごくごくと飲む。何だかやっと生きてる心地がした。
「先ほど犯人全員と、他場所でも監禁されていた少女の保護ができたと風見から報告があった。」
「…そうですか。」
「お前のおかげだ。よくやったな。」
まさか降谷さんから褒められると思わなかったから私は思わず目を見開いた。と同時に自然とぼろぼろと涙が溢れてきた。全く最近涙腺が緩くてどうしようもない。
「な、」
「すみませ、あの、ありがとうございますっ、」
「悪い、今犯人たちのことを言うべきではなかった、」
「っちが、うれしくて、」
「え?」
「降谷さんに、褒められたことが嬉しくてっ、」
そう言えば、降谷さんは立ち上がって私の方へと近寄り、そのまま涙を拭ってくれた。その手はすごく温かかった。
「今日はゆっくり休め。朝迎えに来る。」
「え、で、もっ…。」
「寝室はそっちだ。」
「ふ、降谷さんは、」
「俺は家に帰るから安心しろ。もう時間も遅いし辻川はここで、」
「降谷さんもここにいればいいじゃないですか。」
率直に思ったことをそのまま伝えると、降谷さんは目を細くしてハーっと息を吐いた。
「…辻川、こんな時に言いたくないが俺はお前が好きなんだよ。だから一緒の家にいることはできない。」
「……。」
「きっと今一緒に夜を過ごしたら、またお前が嫌がることをしてしまうかもしれない。わかるだろ?」
「……。」
「だから、」
「今日の私なら、大丈夫だと思いますよ。」
「…どういう意味だ?」
「だって、…汚いから。」
そう。今日の体なんて見てもきっと降谷さんは前みたいに私で興奮したりしないと思う。こんな傷だらけの体、誰だって気持ち悪いと思う。私は力なく笑うと、降谷さんが顔を歪ませた。
そしてそのまま私をギュッと抱き締めてくれた。
降谷さんの心音が、今の私にはすごく心地よかった。
「降谷さん…?」
「君は綺麗だ。」
「…ふる、やさん、」
「汚くなんてないよ。」
「っ…ほんとは、したことなんてないです。」
「!?」
「だから、初めて、あんな風に触られて…私、恐怖もあったけど、気持ち悪くて…。どんどん気持ち悪いっていう思いが全身に回って自分がどんどん汚くなるのを感じました。」
「、辻川、」
「私も、…降谷さん以外に触られたくなかったのに。」
私はギュッと降谷さんの背中に腕を回した。体が少し熱くなるのを感じた。