やっと通じた

「…何言ってるんですか?」

意味が分からない、と思うのに心臓を刻む速さ、手の震え、脚の震えが止まらなかった。そんな私を、安室さんがどう見ているのかを確認する余裕もなかった。

「質問に答えられるのはお兄さんのことだけと、約束しましたよね?」
「……。」
「先ほどまで饒舌に話していたのに、その余裕もなくなってしまったのかな?」
「…っう、るさ、い、」
「うん、よしよし喋れるね。風見、そのままスピーカーの左上のボタンを押せば通話モードになる。お前自身で生存確認ぐらいしろ。」

そう言うと安室さんは携帯を取り出し、テーブルに置いた。心臓の音が、うるさい。


『みのり、久しぶりだな。』


その声は、確かに兄のものだった。何年も何年も聞きたかった声だった。落ち着いたトーンのお兄ちゃんは、大好きなあの頃と変わらない。

私は声を出したいのに、嗚咽がすごく声にならなかった。全身の震えも止まらなくて、戸惑ってしまうほどだ。そんなとき、安室さんが私の背中を擦ってくれた。

その手がまた温かくて、苦しかった。


『俺は大丈夫だ。』
「ぉ、に、ちゃ、」
『今まで黙っていてすまなかった。こちらは元気でやっている。みのりは元気でやっていたか?』
「ぅ、んっ、げん、きだょぉ、」
『そうか。』
「おに、ちゃん、どこに、いるの?なに、してるの?」
『…それに答えることはできない。』

声だけ聴ければ満足、そう思っていたけどやはり声を聴いてしまえば会いたくなる思いはどうしても募っていた。だけどきっとお兄ちゃんは、答えてくれない。

「もう、一生会えないの…?」
『…一生ではない。いつか会えるよ。』
「いつか、って、いつ?」
『…すまない、それは約束できない。』
「、お、にいちゃん、は、わたしのこと、嫌いになったとかじゃ、ないよね?」
『…そんなわけないだろ。』
「っ…よか、った。私も、おにいちゃんの、こと、だいすきだよ、」
『ああ、俺もみのりのことは大切な妹として思っているよ。』
「うんっ…また、電話は、できる?」
『…それは降…、いやまたいつかできるさ。』
「本当?」
『…ああ。だから安室さんに頼ってもう俺を探そうとするのはやめてくれ。』
「…う、ん。おにいちゃん、安室さんとは、どういう、」
「風見、ではまた連絡する。」
『はい。すみません、ありがとうございます。』
「え、え、まって!」


安室さんはあっさり電話を切ってしまった。私はへにゃへにゃと地面に座り込んでしまった。

お兄ちゃんと話ができた、これだけは私が本来求めていた要望が叶ったことには違いない。だけど謎が多すぎる。目の前のこの人は、お兄ちゃんとどういう関係なのか。でもきっとその質問をして答えが返ってこないこともわかっていた。

「どうでした?久しぶりのお兄ちゃんは。」
「…お話しできたのが、夢のようでした。」
「随分と泣きじゃくっていたようですが、お水でも飲みますか?」
「…はい。」
「ほら、そんなところに座ってないで椅子に、」
「安室さん。」

私はテーブルに掴まり震える足を踏ん張り立ち上がる。そしてゆっくりと安室さんに視線を向けた。ああ、この自身に満ち溢れたプライドの高そうな顔が本当に好きじゃない。

「私は、お兄ちゃんに会いたい。」
「ホー、それで?」
「だから、…何でもするから、情報をください。」

お兄ちゃん、ごめんなさい。今はこの人に頼るしかないんです。