風呂から上がるとみのりさんがソファで寝息を立てて眠っていた。よくもまあ男の家でここまでリラックスできたものだ。
俺は仕方なくブランケットをクローゼットから取り出し、彼女に掛けた。
「兄弟、なんだよな。」
彼女の前に座り、髪を撫で顔を見る。あの仏頂面の部下の妹とは思えない。いや似ているところは確かにあるが、こう寝ているとただの少女だ。まだ十代だからか、この肌の透明度や艶やかな唇、…これ以上見ていたら犯罪者になりそうだ。
俺は立ち上がり、水を一気に飲んだ。そう言えば誰かに夜ご飯を作ってもらったのは記憶にないほど久しぶりだった。こんなに温かいものだったのか、と少しほっこりしたことはバレていないはず。
「さて、どうするか。」
このまま彼女をソファに寝かせるか、それとも起こしてベッドに移動させるか。効果音にしてむにゃむにゃと寝ている彼女を起こすのは忍びないが、ここで寝かせたまま風邪を引かれても堪らないので仕方なく膝の下に手を入れ彼女を持ち上げた。
「ん…おに、ちゃ、」
俺を風見と勘違いしているのか、ギュッと胸板に掴んでくる彼女は19歳よりも幼く感じる。風見と最後に会ったのが中学生とか言ってたか。いやでも中学生だってこんなにお兄ちゃんにべったりなのか?俺には兄妹がいないから分からないが、正直ここまで思ってくれている家族がいることに少し羨ましさを感じる。
彼女をベッドにおろすと、寝ぼけているのか全然腕を離そうとしなかった。
「みのりさん、」
「や、だ…いかないで、」
「……。」
「おに、ちゃん、」
こんな撫でるような声を彼女が出せることに少し驚いた。いつものみのりさんとは大違いだ。とは言え俺だっていつまでもこの体制でいるのはしんどい。腕を離そうとしたとき、彼女がぐいっと俺のシャツを引っ張った。それにバランスを崩し、彼女横に倒れ込んでしまった。
「っぶな…、もう少しで潰すところだったぞ。おい、」
「…ん、あ、むろ、さん…?」
「そうだよ、俺はお兄ちゃんじゃない。君が嫌いな安室透だよ。」
「…っ安室さん!?」
「やっと起きたか。言っておくけどこれは不可抗力であって、君が僕のことを引っ張ったからここにいるだけだからな。俺が好んでここにいるわけじゃ、」
「俺、って言った。」
こいつ…。寝起きでもそういうところには着視しているとは驚いたものだ。俺はハーッと息をつき、体を起こす。
「おやすみなさい、みのりさん。」
「あっまって、安室さん、」
「ちゃんと布団掛けて寝るんですよ。」
「嫌いじゃ、ない!」
「…ハ?」
「私、安室さんのこと、嫌いじゃないよ。」
風見、この子に男の怖さを教育してあげた方がいいのではないか?いや、俺が上司としてするべきなのか。もうよく分からなくなって再びため息をついた。