降谷さんと生活を共にして気が付いたことがある。
@意外と雑。というか男の人って感じ。よくお母さんがお父さんに「脱いだものは脱ぎっぱなしにしない!」とか怒ってたけどそんな感じ。
A朝はぱっと起きているのに眠いときは少し甘えん坊。このギャップが可愛くてやばい。正直私が男の人だったらこのまま襲ってしまうかもしれないと思うほどに可愛い。
B仕事で疲れすぎているときは喋りかけない方がいい。下手に「大丈夫ですか?」とか「休んでください」と声を掛けると怖いぐらいに睨みを付けられる。そして睨み付けたことに対して降谷さん自身が後で後悔して謝ってくるから私は何もいわないようにしていた。
気が付けば共同生活から1ヶ月が経っていて、私もこれがだんだんと日常になってきていた。
そんなある日。一本の電話が入った。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんから電話って珍しいね?」
『…今少し話しても大丈夫か?』
「うん。平気だよ。」
『…非常に言いずらいんだが、降谷さんが潰れた。』
「…え、な、なに怪我とか、」
『酒だ。』
「へ?」
『普段ならこんなことありえないんだが、今日は三徹目という中で急きょ上層部に呼ばれてしまって相当なお酒を飲まれたらしくてな。』
「うわあ…大人って大変だね…。」
『本来であれば俺が送っていきたかったんだが、明日までの報告書が終わらないから俺の部下が降谷さんをご自宅まで送りつける予定だ。』
「…お兄ちゃんと、会えたかもしれないのに…。」
『…すまない。』
「ううん。嘘、またちゃんと会えるときがくるって信じてるから。」
『…ああ。恐らく後10分ほどで車が到着するから降谷さんを迎えに来てくれないか?』
「はいっ」
『…何だか嬉しそうだな。』
「だってお兄ちゃんに久しぶりにお願い事されたし。降谷さんとも4日振りに会えるし。嬉しいことたくさんだよ!」
『…降谷さんをよろしく頼む。』
「了解しましたっ」
ここ3日間安室さんはポアロもお休みをしていたため、ようやく降谷さんに会える。そう思うと私はパジャマに上着を羽織って家に鍵を掛けて早歩きでロビーに向かった。後10分と言っていたけどそこには1台の車が停まっていて、中から男の人と降谷さんが支えられるように出てきた。
「あ、あのっ」
「…もしかして、みのりさんですか?」
「はい、そうです。」
「わざわざありがとうございます。」
「こちらこそ、降谷さ〜ん、大丈夫ですか〜?」
「ん…、」
「お部屋までお送りしましょうか?」
「え、でも…。」
「みのり…、みのりが、いる…。」
「あ、降谷さん気が付きましたか?ほら、部下の方にすごい迷惑かけてますよっちゃんとしてください!」
「…俺は、ちゃんとしてる。」
「じゃあちゃんとお家まで歩けますか?」
「…あるける。」
「…だそうなので、大丈夫です。あなたも、目の下の隈がすごいので早く帰って寝てください。」
「…ありがとうございます。」
「あ、あとこれっよかったら皆さんで召し上がってください。」
「えええ、い、いいんですか?」
「はいっいつもお世話になっているので。」
私は部下の方に今朝作ったマドレーヌをお渡しすると涙ぐんでるようだった。大袈裟な人だなあ。その代わりに降谷さんの腕をバトンタッチすると少しだけ彼の体重が掛かった。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「はいっ意外と私、力持ちなので!本当にありがとうございました!」
「…(いい子だ…。)」
エレベーターまでは何とか降谷さんはゆっくりだけど歩いてくれた。どれほどお酒を飲んだらこれだけお酒臭くなるんだろう。匂いだけでくらくらしそうだ。
「みのり、」
「はい?」
「みのり…、」
「なんですか?」
名前を呼ぶだけで顔を上げることもない降谷さんの問いかけに答えるだけ無駄なのかもしれないけど、ついつい可愛くて答えてしまう。
よしよしと言いながらいつもより低くある頭を撫でてあげると、急に降谷さんは顔を上げどこか官能的な目で私を見つめた。
その視線にドキッとして目を反らすと降谷さんは私の顔の真横に手を付き、名前を呼ぼうとしたらその前に唇を奪われた。何時もみたいに優しいキスではない、荒々しくてまるで欲にまみれた獣だ。
逃げても逃げても絡み付いてくる舌がしつこくて苦しい。上顎をぺろりと周回し、息ができないほどに唾液が送られ厭らしい音がエレベーター内に響き渡る。
「ん、ふる、っふぁ、」
「…っ、」
「も、っぃ、ゃっんん〜、」
「まだ。」
「ん〜 ぁ、」
キスに夢中になっているといつの間にか降谷さんが私の上着の中に手を入れてきたことに気が付いた。これは、まずい。そもそもここはエレベーターだ。私は必死に抵抗したけど、あんな腹筋ばきばき男に敵うわけがない。
「ふる、ぁしゃ、」
「ハァ、」
「んっ、零!!!」
「……。」
酔っ払いの頭にようやく響いたのか、降谷さんの動作がようやく止まった。と同時にエレベーターが開き、私は安堵の息を着く。
「もう、ほら行きますよ!」
「……。」
「降谷さん、歩いて!」
「……。」
どうしたというのか、先ほどまでの勢いは消えぼてぼてと歩く降谷さんにはもはやいつもの威厳はない。とりあえず家の中までたどり着けたことに自分で自分を褒め称えたい。
「もう、靴脱げますか?」
「…脱げる。」
「はい。じゃあジャケットとバック預かりますね。お水とお薬持ってきますからそれ飲んだら寝てください。あ、ズボンもこれ!着替えて!」
「…みのり、」
「ほら!はい!」
「…はい。」
言う通り着替え、お水と薬を飲んでる降谷さんは先ほどエレベーターの中でしてた人とは大違いだ。飲んだところを確認して私はまた彼の脇の下に入りベッドに移動させる。
「もう寝ちゃってください。」
「…みのりは?」
「私は今日の降谷さんは信用ならないのでリビングで寝ますっ」
「…それなら俺が、」
「いいから!起き上がったら嫌いになりますからね!」
「…それは困る。」
「うん。いい子いい子。じゃあおやすみなさい。」
まるで子供にするかのように私は降谷さんの頭を撫で、額にキスをして部屋を出た。翌日降谷さんに大袈裟なほどに謝られたのはまた別のお話。