梓さんプロデュース

「え〜!?!?まだ安室さんとしてないの!?」
「あ、梓さんシーッ!!声デカいです!」
「あ、ご、ごめんねつい…。」

店内ではサラリーマンの人が音楽を聴きながらいる人のみだったからきっと誰にも聞こえていないはずだけど、私は周りを何度も気にするように見渡した。

梓さんにはわたしからではなく安室さんから伝えたらしく、唯一私たちの関係を知っている人。だからたまにこうやって安室さんとの関係を聞かされるんだけど、やっぱりこういう話は苦手だ。

「だって2人からよく一緒のシャンプーの匂いするのに?!」
「…(それは一緒に住んでるから、だなんて言えない。)」
「それにもう結構続いてるよね?え、もしかして安室さんって今はやりの草食系男子だったの…?」
「え、と…というよりは、私に原因があるというか…。」
「…年齢差とか?」
「それもある、と思うんですけど…私、その…経験がなくて。」
「ええええ!!」

本日2回目の梓さんの声がお店に広がった。


「ごめんごめん、びっくりしちゃった。」
「お客さん今はいなかったのでよかったです…。」
「えーでもびっくり!だってみのりちゃん、こんなに可愛いのに!え、もしかして人生初彼氏も安室さん?」
「…そうです。」
「キャー安室さんが羨ましいっ!」
「いやいや、私がもっと過去に恋愛をしてればこんな安室さんだって待つことなかったのに、申し訳ないんです…。」
「みのりちゃん…。」
「…でも、本当は安室さんになら何されてもいいって思ってるんです。だけど優しいから、…今更私からアクション起こすなんてこともできなくて、今は逆に何もできずにいるんです。」
「…もーみのりちゃん、可愛いっ!」

梓さんは私のことをギュッと抱き締めるとよし!と意気込むようにまた声を張った。

「今日バイト後、安室さん悩殺アイテム買いに行きましょう!」
「え、ええ!」
「勿論ここは2人の良好な関係を見守り隊の私がお金も持つので!」
「いや梓さん、それは、」
「お姉さんにひと肌脱がせて頂戴!」
「…は、はい。」

その気迫に私は圧倒されてYesと言わざるを得ない状況だった。でも何だか楽しそうな梓さんを見るのは好きなので、少し嬉しかった。





*

「さあて!行きますか!」
「はいっ。」
「まずはデート服からよね〜、みのりちゃんと安室さんって普段どこに行くの?」
「…えーっと、」

考えてみたら外でデートをしたことがほぼない。もともと私もインドアだし、安室さんともお休み合うことは少なかったため、貴重なお休みはお家で一緒に映画見たりすることが多かった。

「ドライブ、とかですかね?(1回だけだけど…。)」
「へ〜じゃああまり歩かないから少し攻めても大丈夫そうだね。」
「…えと、」
「これなんてどう?」

そう言って梓さんが私に当ててきたのは、パステルカラーの膝上20cm丈の小ぶりな花柄ワンピース。そりゃ可愛いけど、いつもガウチョとかスキニーを履くことの方が断然多いため、こういう系統の服は一切手を付けたことがなかった。

「これは梓さんの方がお似合いなんじゃ…。」
「私は違うの!みのりちゃんこういう系統も絶対に似合うと思うの!髪も巻いて少し大人っぽくすれば安室さんだってびっくりだよ!」
「そう、ですかね?」
「そうそう!これ絶対可愛いよ!」
「…じゃあ、これにします。」
「うん!次いつ安室さんに会うの?」
「えっと…多分今日、夜ご飯を一緒に…。」
「えええ!ごめんね、私知らなくて連れまわしちゃって!」
「いやあの、大丈夫です!夜遅いので!」
「…じゃあ今夜、勝負を仕掛けてみるのはどう?」
「え、今日、ですか…?」
「ほら、そこで無料ヘアメイク体験やってるみたいだし!あ、すみません〜!まだ大丈夫ですか〜!」
「大丈夫ですよ!」
「この子、とびっきり大人っぽく綺麗な子にしちゃってください!」
「え、え、梓さんっ?」
「あっそうだみのりちゃん、下着のサイズっていくつ?」
「へ?あ、えと、Eの60で、す、」
「…着やせするタイプ?」
「梓さんっ!」
「あはは、じゃあみのりちゃんはちゃんと変身しててくださいね〜!」

そう言ってまた梓さんはお店の方へと戻って行ってしまった。私は取り残され、体験のお姉さんにこちらへどうぞと連れられ椅子に座った。

普段は一つ結びか、髪を下ろすだけのことが多いのでこうやってセットするのはほぼ初めてである。降谷さんのために、初めてのことをするのが多いなあ。降谷さん、こういうの好きなのかな…。

ただそうやって降谷さんのことを考えるだけで楽しかった。


「どうですか〜?」
「…わあ、すごい。違う人、みたいです。」
「うふふ。お姉さん可愛いからこれは私からのサービスです!」

そう言ってお姉さんはハーフアップにされた髪にバレッタをつけてくれた。ふわふわと緩く巻かれた髪と、いつもはしないような化粧にまるで別人かのように思えた。

私はお姉さんにお礼を言って梓さんと連絡を取る。

「え、みのりちゃん?!すっごい可愛い!!」
「あ、ありがとうござますっ何か恥ずかしいですね…。」
「もうこのまま安室さんの手に渡ってしまうのがもったいないくらい…。」
「そんなことないですよ…。」
「あ、そうださっき買ってきて、買ったお店のフィッティングルーム借りていいって言われてるから着替えましょう?」
「はいっ。」


そして受け取った中には、ワンピースの他に少しヒールの高いパンプスと白をベースとした透け感のある下着も入っていた。

私はそれを見てフィッティングルームから顔をだし、梓さんを呼んだ。


「あ、あああずささん!」
「あれ?着替え終わった?」
「これ、下着、!」
「え〜可愛いでしょ?今人気のシリーズらしいよ?あ、ちゃんと透けキャミも着た方が可愛いから着てね?」
「ぅ〜…わかりま、した。」

梓さんがせっかく選んでくれたものだから無駄にはできないし、仕方なくそれを身に纏ってフィッティングルームを出た。鏡に映った自分はまるで別人のようで、いつもより少し大人っぽくなれた気がした。

「梓さん、」
「キャー可愛い!やっぱりみのりちゃん足も細いし出した方が断然いい!可愛い!」
「…ありがとうございます。」
「後は、安室さんに魔法の言葉を言えば完璧よ!」
「魔法の言葉?」
「私を安室さんのものにしてください、それだけで十分!」
「…わ、かりました。私、頑張りますっ。」


梓さんに背中を押されながら、私は降谷さんに連絡を入れた。