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私が安室さんについて知ってることを話そう。

1、ポアロで働いてる。
2、女の子から超モテる。
3、毛利探偵事務所の探偵見習をしている。

以上の情報だ。

3番目が関係しているからか、私は毎朝会社の前にポアロを通る度横目で確認していただけにも関わらず、勇気を出して初めて来店した際には「ようやく来ていただけましたね。」と言われてしまった。

その時は今までこっそりと見ていたのが見透かされたことがすごく恥ずかしくて、頼んだコーヒーを10秒くらいで飲み干して出て行った記憶がある。(案の定舌は火傷した)

もう絶対にお店にも行けないし安室さんにも会えない、そう思ったのにそれからというものの、どうしても会社の前にポアロを通らなくてはならない私は下向きで歩いてても安室さんに声を掛けられるようになった。

「あ、おはようございます!」
「…おはようございますっ。」
「本日もお仕事ですか?」
「そうで、す。」
「頑張ってくださいね。」
「あ、ありがとうございます。…安室さんも、頑張ってください。」
「ええ。あ、そうだずっと聞きたかったんですけど、あなたのお名前は?」
「…辻川みのり、です。」
「辻川さん、またお店にも来てくださいね。」

小さく頷いて朝から爽やかな安室さんと別れた。謎に包まれたミステリアスなイケメン。ただ見ていただけなのに、私の中でどんどんと彼の存在が大きくなってまるで恋をしているみたい。

「そんな、まさか。」

私はブンブンと首を振り、会社のデスクに座った。

「おはよ、みのり。」
「あ、佐藤先輩、おはようございますっ。」
「相変わらず警察に勤めてなさそうな顔してるわね〜。」
「…気にしてるんですから、言わないでくださいっ。」
「あっはは、というかそもそも顔が弱弱しい、体が弱弱しく見えるって理由だけで捜査一課外されたのは理解できないわ本当に。」
「……。」
「でも会計課も大変でしょう?」
「…私は、社内でカタカタと事務作業をするために、警察になったわけじゃないのに…。」
「みのり…。」

私は身長が156cmと、世の女性の平均だけど警察官としてはかなり低くて、その上食べても太れない体質と童顔のせいで交番にいても舐められる。それでも成績だけはよかったから今年警視庁に配属されたかと思えば会計課という地味な部署に配属されてしまった。

社内を歩けば、他の男性社員からはいつも舐められて、何度も接待の場所に連れてかれてお酒を注ぎにったり、セクハラされたりなんて日常茶飯事だった。

そんなことをされても辞めたくないと思う理由は、立派な刑事になりたい。父のような、立派な警察になりたいと思っていたからであった。

「佐藤さん!」
「あ、ごめん。もう行かなきゃ。」
「気を付けていってきてください。」
「ありがとう。」

佐藤さんが羨ましい。男の人に負けないくらいパワフルでかっこよくて。男性陣に混ざって事件解決に大きな協力をしている。ああなりたいなと何度も思っていた。

「辻川、この数字おかしいからちょっと調べて。」
「はい。」
「あ、あとこれ、第三フロアの地下に書類があるからその書類持ってきて作成よろしく。」
「第三フロアって…私たち立ち入っていいんですか?あそこは…。」
「ほら、これ。許可書。」
「…かしこまりました。」

上司から第三フロアに足を踏み入れられる許可書をもらったので早速私は向かうことにした。第三フロア、というのは我々警察庁でもごく僅かの人間にしか知られていない公安の人たちが立ち入ると言われている場所。通常は出入りを禁止されていて、公安の人と特別に許可を得た人しか立ち入りができなくなっている。

そんな特別な場所への入出に少し緊張した。

入口の扉で許可書を見せ、私は入ったことのない領域に足を踏み入れた。入るだけで感じたことのない緊張感が走った。とにかく資料を見つけたらすぐに出よう。そう思って私は速足で地下にある倉庫に入った。

「風見か?」

扉を開くと、男の人の声が聞こえた。この声、どこかで…。ここにいるということは恐らく公安の方だろう。私は姿は見えなかったけど怪しまれないよう挨拶をした。

「あ、いえすみません。特別許可書を得てこちらにある資料を取りに来ました会計課の辻川と申します。」
「……。」
「すみません、失礼します。」

中に入るとその人の姿が見えた。その時、私は驚愕する。

「あ、あ、」
「辻川さん、警察の方だったんですね。」
「っあむ、ろさん…?」

どうして彼が。だって私の知ってる安室さんは、ポアロで働いてる女性にモテモテの探偵見習だったのに…、なぜこんなところにいるんだ。

「どうして、と言いたげですね。」
「そ、そりゃそうですよ、」
「君は本当に刑事かい?その見た目も喋り方も全然それらしくない。」
「…あ、むろさんだって、そうです。」
「安室じゃない。」
「……。」
「俺は公安の降谷零だ。」
「ふる、や、れい…。」

安室さん、ではなく降谷さんは席を立ち、私の方へと歩いてくる。やはりどう見てもその姿は安室さんで、私は軽いパニックである。

そしてそのままなぜか腕を掴まれ、壁に挟まれた。この状況は、何だろう。掴まれた右手が少し痛かった。

「ほら、こんな直ぐに捕まえられる。」
「っあむろ、さん、」
「腕なんて今にも折れてしまいそうだ。君に警視庁が勤まるのか?」
「、勤まり、ますっ。」
「会計課だっけ。まあそりゃ勤まるはずだ。」

知らない。こんな安室さん、私は知らない。私が知ってる安室徹は、優しくていつもニコニコしていて…こんな冷たい目をしていない。

「君、警察向いてないよ。」
「っ決めつけないで、くださいっ。」
「じゃあこの状況から逃げて出してみろよ。」
「わた、しだって、」

空いた左腕で、安室さんに攻撃をしようとするも、それすらも読まれていたようであっさりと捕まる。あろうことか、両腕を片手で掴み、安室さんは利き腕である右手がまだ自由が効く状況だ。

逃げられるわけがない、そう瞬時に悟ってしまった。

「いいか、君はこの仕事から身を引くべきだ。」
「っぃや、です。」
「自分の身が守れないやつに国が守れるものか。」
「っ守ります、」
「これは君のために言ってるんだ。言うことを聞いて、」
「安室さんには、関係ない!」
「……。」
「私は、へっぽこでも、会計課でも、国のために、国民のために働きますっ、例え自分の身がどうなろうとも、国のためになるなら、」
「適当なことを言うな。」
「適当じゃありませっんん、〜!」

私は抵抗できる間もなく安室さんに唇を奪われた。急なことで驚きすぎて、目を閉じることもできなかった。無理やり口を割かれ、ぬるっと舌が絡み付いてくる。その間、空いている右手で私の体を下から上へとゆっくりと触ってくる。夢見てた安室さんにこんなことされる日が、こういう形で来てしまうなんて不本意だ。

私は息が苦しくなって足も震え、涙を必死に堪えてた手前安室さんの動作が止まった。

「…腕が使えないなら足があるだろう。もっと抵抗しろよ。」
「っそ、な、はぁ…、っこと、言うなら、やめてくださ、いっ…。」
「…そんなだから、他の男にもされるんだろ。」
「!?な、んでそれをっ…。」

どうして安室さんがそんなこと、知ってるんだろう。私は1か月前、他部署の刑事に呼び止められ、今と同じような状況に追い込まれ襲われた。間一髪のところで人が入ってきたこともあり最後までされなかったものの、あのまま人が入ってこなかったらと思うと身震いがした。

強さこそ全て、そう言われたような気がした。これじゃあ私はいつまでたっても父のような刑事には到底なれない。

「お前がその現場にいたとき、たまたま入ったやつは俺の部下だ。」
「っ…そ、うだったんですね、」
「そこであったこと、全部聞いた。」

そう言って次第に安室さんは掴んでいた腕を離し、私と距離を置いた。やはり掴まれていたところは赤く痕が残っていた。

「あんなことをされそうになっていたのに、泣いていなかったと。」
「…、」
「今だってそうだ。怖い、やめてと泣けばいいだろう。」
「…… 」
「どうしてお前はっ、」
「泣いて、どうなるんですか?」

想像していたよりずっと、冷たい声がでた。それを安室さんも汲み取ったのか、ゆっくりと振りかえり私を見た。

「泣いたら、やめてくれましたか?」
「……。」
「そんなこと、ないでしょう?泣いたらもっと、ひどくなる。知ってます、男の人は泣いた方がもっと酷くしたくなるって…だから、」
「だからって無抵抗でされる方が可笑しいだろう!」

どうしてこんなに安室さんは私に説教するんだろう。ほっといてほしいのに。そもそもあの時のことなんて思い出したくもない。気持ち悪い男の手、匂い、鼻息…吐き気がしそうだ。同じようなことをしてきた安室さんにはそんなこと、感じなかったのは、きっと少なからずポアロでいたときのあの記憶が心の片隅にあったから。それと当たり前だけどあの時の男と違って清潔にしてるからいい匂いもするし、少し気になってた人からこんなことされたから、もう感情がぐちゃぐちゃだ。

「あ、むろさんは、わたしのこと、説教するために、ここにいたんですか?」
「っ…別にそういうことでは、」
「私が弱いやつだから…、でも、私、好きで女に生まれたわけじゃないっ…好きで、この体に生まれたんじゃない、です。」
「……。」
「私だって、できることなら、父のような、強くてかっこいい人に、なりたかった。」
「…お父さんも刑事だったのか?」
「…はい。私が中学生の頃事件に巻き込まれて亡くなりましたが、偉大で自慢の父でした。父に憧れて、刑事になったのに…私のこのひょろひょろの体と童顔と、女というレッテルのせいで、いろんな人に舐められて、…まさか、警察内で襲われるとは思ってもいなかったです。」
「……。」
「…でも、私はこの国を守って死んだ父の想いを、死を無駄にするわけにはいかないんです。だから、安室さんになんて言われようと、私はっ、」
「だから降谷だって。」
「……。」
「ハー…分かった。お前がいかに本気で警察やってんのかは認める。…けど無理をするな。」
「っ…。」
「お前はどう足掻いても女だ。気持ちだけではどうにもならない。」
「わか、ってます。」
「後そのおどおどした喋り方やめろ。」
「っ…、」
「さっきちゃんと話せてただろ。相手の目を見て自分の意志を尊重させれば、お前がへっぽこでも相手は見てくれるかもしれない。」
「…は、い。」
「後、悪かった。」
「へ?」

何で安室…降谷さんが謝るんだろう。私は顔を上げると、安室さんがゆっくりと腕を掴んだ。先ほどとは違って優しく触れるほどの力だ。

「腕、こんなになるまで掴んで。あとキスも。…無理やりしてごめん。」
「い、いえ…大丈夫です。」
「…君のことは知ってた。ポアロの前を通るたび、チラチラ見てきて、話しを掛ければ顔を赤くさせて分かりやすい人だと思ったよ。」
「っ…、」
「でも部下から君のことを聞いて、正直驚いた。そんな素振りも見せなかったし、それに気が付いてあげられなかった自分自身にも腹立たしかった。」
「そん、な。」
「柄にもなく一人の人間を、守りたいと思ってしまったんだよ。」

ドキッと心が鳴った。私は降谷さんを見ると、降谷さんは顔を背けていた。男性にこんなこと言われたことがなかったので、私は言葉が出てこなかった。

「何か言えよ。」
「っ…あ、えと、…あ、安室さんは優しいけど、降谷さんは唐突で、心が追いつかないで、す。」
「ははっ確かにな。」
「で、も…私は守られるだけはもう、嫌なんです。」
「……。」
「降谷さん、私にも、あなたを守らせて頂けますか?」

そう言えば降谷さんは少し驚いたように私を見て、ふと笑った。この笑顔にドキッとした。

「俺を守るなんて大変だぞ?」
「わかっ、ってます。」
「本当に?」
「公安は、この間も爆破事件に関わってたし…。」
「俺あのニュースのど真ん中にいたんだけど。」
「え!?」
「そういう中でも守ってくれるのか?」
「…守り、ます。私は警察なので。」

そう言えば降谷さんは声を上げて笑った。私はその姿にビックリして目を見開いた。その後降谷さんは私の頭を撫でた。

「辻川。」
「へ?」
「お前、明日から移動。」
「…え?」
「公安部、来るだろ?」
「…は、はい!」

きっと明日からの人生は大きく変わる。降谷さんと共に。