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大きな事件が起こることなく、不気味なくらい公安部にも平穏が訪れた。とは言え普段外で捜査続きの方々は内仕事が溜まっているばかりで残業の日々には変わりがなかった。

ちなみに降谷さんは午後になって一度も自分の執行室から出てきていない。


「風見さん、コーヒー入りますか?」
「…ああ、頼む。」
「かしこまりました。」
「悪いな、こんな事務員みたいなことさせてしまって。」
「いいんです。でもいつか風見さんみたいに現場に出していただけるように精進しますっ。」
「…(それは降谷さんが許さないと思うけどな。)頑張れよ。」
「はいっ!」
「ああそうだ、降谷さんにも入れて差し上げろ。きっと水分補給もせずに没頭しているであろう。」
「そうですね。そうします。」

私は給湯室に行き、行き詰っている方全てにコーヒーを配り歩いた。その都度皆さんにお菓子を頂くものだから、配り終わった時にはお盆の上がお菓子だらけになっていた。

最後に降谷さん専用のマグに濃いめのコーヒーを注いで、ドアをノックする。返答はなかったけどそれはいつものことらしいので私も失礼します、と声を掛け扉を開いた。

降谷さんはこちらに目も眩まず、もくもくと作業に打ち込んでいた。その集中力は凄まじいものだった。

「降谷さん、コーヒーこちらに置いておきます。」
「…ああ。」
「あと糖分もとった方がいいかと思いますので、チョコレートも食べてください。」
「…ああ。」

ああ、これはきっと私のことも気が付いてないな。でも邪魔をするのも申し訳ないと思い、私はコーヒーとチョコレートを置いて部屋を出た。

再度給湯室へ行き洗い物をしていると、バタバタと音がし、私はそれを覗き見しようとしたら給湯室に勢いよく降谷さんが入ってきた。私はそれにビックリして後退りしてしまった。

「あ、お、お疲れ様です降谷さん…。」
「…悪い、さっきコーヒー持ってきてくれたのに気が付かなくて。」
「いえ、凄く集中していらしたので、」
「さっき風見が来てお前が淹れに来てくれたと聞いて、あー…その、ありがとな。」
「っは、はいっ、そんなわざわざすみませんっ、」

降谷さんの貴重な時間を割いてしまったことに申し訳なさすら感じる。本当にお忙しい方だ、私なんかに構ってないで戻ってほしいのに降谷さんはなかなか戻ろうとしない。私は洗い終わったお盆とマグを置き、デスクに戻ろうとする。

「あ、じゃあ私戻りますね。」
「…辻川。」
「はいっ、」
「…来週、テロ組織による動きがある。その現場に一緒についてくるか?」
「っ、」

まさかそのように言っていただけるとは思わなかったので私は胸が高鳴った。そんなの返事は決まっている。

「はいっもちろんです!」
「…いいか、できないことはやらない。分からないことは指示を待ち、絶対に無茶をするんじゃない。現場には俺も風見もいるが100%一緒にいることができるという保証はない。」
「大丈夫です!」
「…俺は、お前を死なせたくない。…心よりそう思っている。」

降谷さんの目を見ればわかる。きっと何人もの仲間を、目の前で死んでいくのを見ているんだ。その声は本気で、死なないですよ〜なんて軽々しく言えるような雰囲気ではなかった。

「だからどうか、無理だけはしないでくれ。」
「…はい。私は降谷さんを信じ、その指示だけに対応します。それに…降谷さんを残して、私は死ねません。」

そう言えば降谷さんはふと笑い、そうだなと言った。私はこの人をもう一人にしてはいけない、そう直感的に思った。