やっと会えた

【今日は18時頃に帰れる。】

降谷さんからそう連絡が入り私のテンションは一気に上がる。単純明快な自分に笑いすら込み上げてしまうほどだ。

【お疲れ様です。ご飯作って待ってます!】

【すまないが仕事関係で来客があるかもしれないので3人分でお願いできるか?】

「来客?」

そもそも降谷さんの自宅に誰かが来ると言うこと自体初めてのことだった。でもこういうの、何かすごく奥さんっぽくない?と勝手に気分が上がってしまう。

【わかりました!掃除も隅々までお任せください!】

【助かるよ。ではまた後で。】

【はーい!お気を付けて!】

私は携帯を置いて家事に取り掛かった。早く降谷さんに会いたい。




*

「…ちょっと気合い入れすぎたかな。」

目の前に広がる和食のオンパレード。降谷さんは結構疲れて帰ってくるときは和食が1番好ましいということもリサーチ済みだ。私は鏡で自分を見て身だしなみを軽く整えているとガチャガチャと扉の向こうで鍵が開けられるのを感じ私は走って玄関に向かった。

「おかえりなさいっ降谷さ…、」
「ただいま。」
「…久しぶりだな、みのり。」
「…お、に、ちゃん…?」

降谷さんの後ろにいたのは、あの頃よりずっと大きく、でもきりっとした顔立ちと凛とした表情は変わらない…大好きなお兄ちゃんがそこにいた。嘘のように思えた。だってずっと会いたいと思っていたのだ。私はお兄ちゃんに飛びついた。ああ、懐かしい匂い。大好きなお兄ちゃんの匂いだ。言葉なんて何も出てこなかった。

「みのり、あ、あの降谷さん…。」
「とりあえず扉を閉めて鍵を閉めてくれ。ほらみのり、ここじゃ風見も困るだろ、中に入ろう。」
「…はなれたくない。」
「みのり、あっちでゆっくり話そう。(降谷さんの視線が痛い。)」
「…お兄ちゃん、本当にお兄ちゃんなんだね。」
「ああ。長らく連絡もせずすまなかった。」

私はもう一度ギュッとお兄ちゃんに抱き着くと、なぜか降谷さんに首根っこを掴まれリビングに連れ込まれた。(ひどい)少しだけ降谷さんを睨むけど、きっとこうやってお兄ちゃんのことを連れてきれくれたのは間違いなくこの人のおかげだ。大好きな人に囲まれて今が1番幸せに違いない。

「ご飯準備だけしちゃうね。」
「頼むよ。…というか今日はいつもより気合いが入ってるな。風見が来ると読んでいたのか?」
「違うよ!!仕事関係の来客って言うから!!」
「ああ、でも俺にとっては部下だし仕事関係の来客に嘘はないだろ?」
「…意地悪。言ってくれればよかったのに。」
「びっくりさせたかったんだよ。」

そう言って笑いながら頭を撫でる降谷さんは、やっぱり前に会った時より少し疲れが見えた。そんな中でもこんなタイミングを作ってくれたことに、私は彼に頭が上がらなかった。

「これ全部お前が作ったのか…?」
「そうだよ。お兄ちゃんの口にも合うといいんだけど。」
「いただきます。」
「い、いただきます。」
「召し上がれ。」

目の前で2人が私の作ったご飯を食べてくれている。それだけで嬉しいのに、お兄ちゃんは目を輝かせ黙々とご飯を食べてくれた。私はその姿を見ているだけで嬉しかった。

「うまいだろ。」
「は、はい。」
「お兄ちゃん、降谷さんのご飯は食べたことある?」
「…前に残り物を頂いたことはある。」
「え、そうなの!?」
「ああ、風見は栄養管理が苦手なようだからな。」
「…申し訳ございません。」
「降谷さんはお兄ちゃんのこと攻めないでください。」
「攻めてない。ただ本当のことを言っただけだ。」
「何か偉そうなんだもん。ね、降谷さんと私の料理、どっちが美味しい?」
「ほう、それは気になるな。」
「……勘弁してください。」
「え、え、お兄ちゃん!?」
「ははっみのり、それを風見に聞くのは酷だろ。上司である俺と言わなきゃいけないのにこんな旨い飯を目の前に、しかも妹であるお前が作ったとあると答えずらいにもほどがある。」
「…そっか。ごめんね、お兄ちゃん。」
「いや、いいんだ。本当に旨いよ。…あ、もちろん降谷さんがお作りになったものもとても美味しかったです。」
「フォローとか気にするな。」
「そういうわけでは!」
「ほら〜!またお兄ちゃん困ってる!ねえ、お兄ちゃん!こっち座って!一緒に住んでた時は隣に座って食べてたでしょ?」
「…いやでも、」
「風見、いってやれ。」
「は、はい。」

お兄ちゃんはお茶碗とお箸を持ったまま私の隣に来てくれた。自分がとてもにやついているのがわかる。そのままお兄ちゃんの左手に絡み付いた。

「…食べずらいんだが、」
「右手は空いてるんだもん。大丈夫。」
「…(それだけでなく降谷さんの視線が…。)」
「みのり、お前今は自分が20歳手前の女性だということを自覚しろよ。」
「何の話してるの降谷さん。」
「…風見。」
「は、はい!」
「みのりは綺麗になっただろ。」
「…そうですね。あの頃と比べたら大人の女性に、」
「本当!?お兄ちゃんに褒められるとすっごい嬉しい!」

私はお兄ちゃんの腰にぎゅっと腕を回した。思っていた以上に厚い体、降谷さんと同じだ。

「みのり、ご飯が、」
「お兄ちゃん。…お兄ちゃんもあの頃よりずっとかっこよくて、電話はしていたけど実際に声を聴くとこんなにも落ち着く。本当に大好き。世界で1番大好き。」
「……(もう降谷さんの顔が見れない。)」
「お兄ちゃんも、私のこと、好き?」
「…ああ。みのりは大切なたった1人の妹だ。」
「うんっあ、お兄ちゃんお酒は飲むの?」
「いや、明日も仕事だし、」
「いいじゃないか。1杯くらい付き合えよ、風見。」
「ひっ…は、はい。もちろんです。」
「降谷さん態度悪い〜。じゃ、お酒持ってくるね!」

私はお兄ちゃんから離れ、キッチンにお酒を取りに行く。すると降谷さんもなぜかキッチンに顔を出した。

「降谷さん?あ、お酒?ビールでいいですか?」
「……。」
「降谷、さん?」

無言で距離を詰めてくる降谷さんの血相は見るからに不機嫌で、思わず後退りする。しかし直ぐに腕を掴まれ強引に唇を奪われた。

「っ!?ゃ、めっんん、」

お兄ちゃんがそこにいるのに、この人はを。私は必死に肩を押し返すも力で敵うはずもなく、されるがままになってしまう。舌を吸うように合わせ口内を犯す行為に私は既にとろとろになってがくっと座り込んでしまいそうになった。だけどそれを降谷さんがしっかり受け止め、ようやく離れたかと思うとにやりと笑いながら親指で唇を撫でるその仕草がかっこつきすぎて見ていられなかった。

「さいてい。」
「どっちが。」
「何が!?」
「世界で1番好きなのはお兄ちゃんだって?」
「そうですけど。」
「じゃあ俺は?」
「……。」
「……。」
「…バカじゃないの。」

降谷さんはたまにすごくバカなのかと思う。そう言えば降谷さんはむっとして顔を反らした。ああ、何て可愛い人なんだろう。年もずっと上で、お兄ちゃんの上司なのに、なんでこの人はこんなに可愛いんだろう。

「もう戻らないと。お兄ちゃん待ってるし。」
「答えないんだ。」
「後で言うから!」
「今。」
「我儘。大人でしょ?」
「……。」
「はい、ビールもって。」

私は降谷さんを引っ張ってお兄ちゃんの元へと戻った。