苦労人同期の話(降谷?風見?)
同期の風見裕也とは完全な飲み仲間だった。
「久しぶり〜何か老けた?」
「そりゃ老けもするかもな。」
「大変そうだね、公安部。」
「ああ。」
「ビールでいい?つまみ系は適当に頼んどくね〜。」
「頼む。」
私は警視庁総務部広報課に配属され数年、危ない仕事はしないものの多くの著名人やらとの関係を築きつつ様々な情報を各方面から聞いていた。そんな中、情報が少ないとはいえ公安部のことを極秘で聞くこともあったためその都度風見の生存確認をしたりしたものだ。
「はい、じゃあ今回も風見が生きてることに乾杯〜。」
「物騒だな。乾杯。」
「〜っくー、美味しい!てか最近寝てる?目の下の隈ひっどいよ?」
「…いや、実は3日ほど寝ていない。」
「え!?嘘大丈夫!?」
「ああ。」
「今日キャンセルしてくれてもよかったのに…。」
「いや、いいんだ。俺も結構この月1の日を楽しみにしている。」
そう言ってるものの、どこか顔色も悪いし明らかに疲れてる様子の風見を見てるとこっちもしんどくなる。今日は早めに解散しようと思ってとりあえず頼んだビールを飲み干した。
「それにしても3日も缶詰で寝かせてくれない上司って鬼だね。」
「…ああ、でも仕事ができる人だから尊敬している。」
「本当に仕事ができる人は部下にそんなむちゃさせないと思うけど〜?」
「あの人とは仕事量が違うんだ。あの人と同じことをしようとした場合きっと俺では1週間はかかってしまう。それほどまでの人だ。」
「へ〜…風見がそこまで言う上司、いつか会ってみたいなあとか言って冗談だけど。」
公安のしかも風見は言っていないけど恐らくゼロと言われる組織にいる人間と組んで捜査に関わっているんだろう、それじゃあこの人って言えるはずがない。寧ろその時点で風見も私もここにいれるのかすら危うい。そんな危険なことになるのなら、私はこうして風見から名の無い上司の話を聞いている方がいいんだ。
「ほれほれ、いいから普段溜めてること吐いちゃいなよ!風見は仕事できるのにいろいろ溜め込みすぎだから!」
「…いや、俺はまだまだあの人の足元にも及ばないんだ。」
「でも私からしたら風見ほど優秀な人はいないよ?」
「うっ…。」
「やだ泣いてんの?疲れてるな〜風見。」
「うるさい…だって俺のことを褒めてくれるやつなんてお前くらいだから…。」
「あーもうほら飲もう!飲んですごいあの人のこと忘れよう!」
「あの人は忘れさせてくれさえしない…気が付いたらいなくなってるし、料理も上手いし、躊躇なく正義を突き進んで、」
「あー…風見、」
「そう、風見とあの人に呼ばれるだけで俺はびびってしまうほどの弱い人間なんだ…。」
「…こりゃダメだ。」
たった3杯だけど3徹にはかなり効いたようで、風見はそのままビール瓶を大切に持ちながら眠ってしまった。この人どうしよう。
起こすのもかわいそうだし、連れ出すにしても彼との身長差を考えると憂鬱だ。そう思っていると風見の携帯が震えているのを感じた。勝手に出るのは忍びないけど、職業柄何か緊急な案件かもしれないと思い私は風見の携帯を取り出した。『降谷』と登録されたその名前を確認し、私は通話ボタンを押した。
『風見、お楽しみのところ悪いが緊急だ。』
「…申し訳ございません、私風見の代理で出ている者です。」
『……風見の同期か。』
「はい。警視庁総務部広報課の辻川と申します。申し訳ございません、風見ですが今しがた電話を取れるような状況ではなく、」
『君が出ているという時点で察しがつく。』
「…ですよね。あの、貴方は風見の上司にあたる方でしょうか?恐らく叩き起こせば飛びあがるかと思いますがどうします?」
『…いや、いい。風見案件だったから連絡しただけで聞けば30分の時間短縮になると思って連絡しただけだ。自分で調べよう。』
想像していた人とは違った。何なら電話を出た瞬間からこんなに若々しい声の人なのかと拍子抜けだった。何となく想像していた上司の像がごつくて怖い顔してるおっさんだと思っていたものだからびっくりした。
『辻川と言ったな。』
「は、はい。」
『風見はいつも君に会うことを楽しみにしていた。まさか同期と言っていたのが女性だとは思わなかったがな。』
「…それは嬉しい限りです。」
『これからもあいつの息抜きの場を作ってやってくれ。』
「は、はい!」
そう言って電話は切られた。
上司、めちゃくちゃいい人じゃない。私は思わず風見の背中を叩いた。