雨は嫌いだ。
正確にいうと雨上がりの空が嫌いだ。どうしたってあいつを思い出す。雲が抜け、暗闇が一気に日の光に照らされる。辺り一面に影ができ、強い光はより一層輝く。
助けられなかった、あいつを思い出す。大切な友だった、あいつを思い出す。
『降谷!』
最後はバーボン、と言ったか。でも俺の中のあいつは不器用な笑顔で笑い苗字を呼ぶ姿だった。。警察学校時代、バカな仲間たちと一緒にふざけたことをたくさんした。
俺はゼロに配属になり、あいつらと連絡が取れなくなった後もあいつだけは最後まで接点が作れた。だからそこで「伊達が死んだ。」「萩原が死んだ。」「松田が死んだ。」そう仲間の死を聞いた。
涙を流すだけ無駄だ。あいつらの信念を貫くには、無駄な行為なんだ。だからその報告に「そうか。」とだけ呟き、葬儀にも行かず俺は仕事に向かった。
お前だけは死ぬなよ。そうあいつに言われた。
『誰に言ってんだ。』
『はは、そうだな。あいつらのためにも。』
『…ああ。』
生前降谷として聞いたあいつからの最後の言葉だった。次に会ったときはお互いに組織の者として動き、あいつが撃たれた。やつらが去り、硬直し始めたあいつの体を触りながら俺は初めて涙を流した。
『お前まで逝ってしまうのか、』
『早すぎるだろうが、っくそ、』
あいつの背をなぞり、その輪郭を確かめる。俺がこいつを、あいつらを絶対に忘れない。決して、この光を俺が、
「零さん?」
「っ…みのり、か。」
「怖い夢でも見ましたか?」
どうやら家に帰った後、ソファで寝落ちていたらしい。顔を覗きこんできたみのりが心配そうな顔をして俺を見つめた。みのりに心配されるほど、俺は情けない顔をしていたのか。
「零さん、」
「悪い、風呂に入ってくる。」
「…零さん!」
みのりは先ほどより大きな声で名を呼び、立ち上がろうとした俺の頭をぐっと自分の方へと引き寄せた。最初はびっくりしたものの、その温かさとドクドクと鳴る心臓の音が今の俺には物凄い安定剤となった。
「私が、います。」
「……。」
「何もできないけど、私は零さんが辛くなったら傍にいます。寂しくなったら、抱き締めます。だからもう…一人で苦しまないで。」
ああ、年なのか。俺も今年三十路だ。あいつらが生きていればもうおっさんだと、笑いながら酒を飲んでいたかもしれない。そんなことを考えてしまった。この小さな温もりの中で、俺は涙が止まらなくなった。
かっこ悪い俺をみのりはぎゅうぎゅうと抱き締め、まるで子供をあやすかのように「今まで頑張ってきたね。」と頭を撫でた。俺はゆっくりと背中に腕を回し、体をよりすり寄せた。
「私はここですよー、ここから居なくなりませんからね。」
「……、絶対、だぞ。」
「はい。こんな零さん、置いていけません。」
「…っ、」
「あのね、私、好きな人より長生きしたいんです。それで、一人になったら毎日御仏壇に今日何があったんだよ〜って話しかけるの。貴方が見れなかった世界を、私が話して見せてあげるの。だから零さん、わたしは死なないよ。」
何て頼もしい彼女なんだ。
俺はゆっくりと顔を上げ、彼女を見るとなぜか彼女の目にも涙が溢れていた。その姿を見て俺は何故か笑みが零れた。
「何で、お前がそんなに泣いてるんだよ。」
「っこれはもらい泣き、なので、」
「バカ、…俺だってまだ死なないさ。お前が泣いてたら、抱き締めてやれないだろう。」
「っ…は、い。」
景光、…悪いけどまだそっちには行けない。お前が世界を照らしてくれる限り、俺は目の前の彼女とともに前に進ませてもらうよ。
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