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きっと彼女は気が付いている。

俺が降谷零だと。それを知っていて安室透として俺と向き合っている。そして恐らく彼女からも俺が降谷零だと言う気はないんだろう。そんな俺たちの曖昧な関係は続いた。

何度か食事にも行ったし、休みが合えば昼間からデートもした。普通の男女ならもう付き合ってそういう関係にも繋がるはずなのに、俺たちは中学生の様な恋愛ごっこをしていた。

今日はみのりが好きだと言うBarに来ていた。



「ん〜…美味しい。」
「相変わらず甘そうなお酒ばかり飲みますね。」
「飲みます?アマレット。」
「いや僕はこれで大丈夫です。それにしても今日はペースが速いですね。」
「そんなことないです〜。」
「酔い潰れても知りませんよ。」
「とか言って介抱してくれるくせに。」
「その時は送り狼になっても文句ないですよね?」
「やだ〜お巡りさん〜!」
「はは、ほらお冷もちゃんと飲んでくださいよ。」
「もう!お父さんですか!」

昔から酒があまり強くないことは知っていた。それは本人も分かっているはずだ。それなのにこんなにも飲んでいるということはきっと理由があるんだろう。

「何かあったんですか?」
「……梅田さんって、あの子、覚えてますか?」
「…ああ、数か月前にあった合コンにいた彼女ですか?」
「そう。梅田さん。生意気だけどいい子だったんです。でも、先日できちゃった婚しちゃって。」
「……。」
「あっけなく寿退社しちゃいました。あはは、結構可愛がってたのになあ。」
「…そうですか。」
「彼女に、先輩より先に寿退社しちゃってごめんなさいって、悪びれる様子もなく言われて、上司にも辻川くんはそういうのないから安心するよって言われて、あれ、私って結婚できない拗らせ独身アラサ―?みたいな。」

彼女はグラスを一気に空にしグラスホッパーを頼む。ペパーミントの味がするそのお酒は、バーテンダーから渡された瞬間に一気飲みされた。そしてそのグラスをテーブルに勢いよくおろし、同じのもう一杯、とオシャレなバーにはそぐわない頼み方をした。

「みのりさん、もうこれくらいで、」
「だいったいさあ、私が何でこれまで結婚にいきつけなかったか分かってる?」
「……。」
「これまでにいい感じまで進んだ人は2人もいたの。でも生涯を共にするって、そんなに簡単に決められないし、考えれば考えるほど零のこと思い出すし、イエスって言いたいのにいざ口を開けば断ってるし、もう私だって意味わかんないっつーの、」
「っ…、」

みのりの口から、零という名前が出てくるとは思わなかった。きっと本人も気が付いていないだろうが、名前ひとつでこんなに脈打っている。これは酒のせい何かじゃない。

「安室さんは、寿退社、しないんですか?」
「…ハー…意味が分からない発言をするな。」
「へ?」
「酔いすぎだ。もう28になったんだろ、しっかりしろ。」
「……く、ちょう、」
「お前が酔ったら記憶を無くすことくらい知ってる。」
「っ、なにいって、」

俺の心が脈打ってるのは酒のせいじゃない。でも、これから起こることは酒のせいにしても許されると思いたい。俺は自分が飲んでいた25°あるウイスキーを口に含みみのりに口付ける。そのまま唇を割り、酒を流し込むと苦しそうに俺の胸を叩いた。ゴクリ、と飲んだのを確認すると俺は唇を離すとみのりは苦しそうな目で俺を見つめた。

「お前が誰かのものになってなくてよかった。」
「っ…や、だ、」
「何が?」
「忘れ、たくないっ…。」
「それはお前次第だろ。」
「やっと、れいと、会えたのにっ、」
「っ…チッ、ここがホテルだったら今頃抱き潰してたぞ。」
「そうして、くれないの?」
「…言うようになったな。」
「だってもう、アラサ―だよ。」
「ああ、そうだな。俺たちも年を取ったんだ。」
「れい、れいっ、」

こんなにも愛おしい彼女を、酒の力がないと俺として抱き締めることができないなんて情けないな。俺はギュッと抱き着いてきたみのりの背中に腕を回し、トントンと一定のリズムで優しく叩く。これで彼女はきっと5分後には寝てしまうはずだ。

「愛してるよ、みのり。」

このことを覚えていてほしいのか、忘れてほしいのか。俺だって分からない。