とは言え仲良し上司と部下
降谷さんの愛車に乗り到着したのは安室さんのセーフティールームではなく完全にプライベートな降谷さんの家だとご丁寧に説明を受けた。その時の私の反応と言ったら雑なものだった。
「入れ。」
「は、はあ…おじゃまします。」
正直、この人いくら稼いでんだろうと怖くなるほどの高級セキュリティマンション。1LDKの間取りだけど、広々とした空間にはあまり家具はなく、男の人の部屋ってこんな感じなのかあと辺りを見渡した。
「そこに座っていろ。」
「はあい。」
「洗面台はあっちだ。手を洗うなら、」
「洗ってきます。」
「ジャケット貸せ。」
「い、いいですよ自分でやりますから!」
何だ。お世話したがりか。私は怖くなって洗面台に逃げ、手を洗う。奥にお風呂があって、洗濯機の付近には乱雑にタオルなどが投げられていた。ようやく見えた生活感に少し安心感を覚えた。
私はジャケットを脱いでリビングに戻ると、降谷さんはシャツを捲り上げキッチンに立っていた。何をしてても様になるなこの人。
「何かお手伝いしま、」
「いいからお前は座ってろ。何しでかすか分からん。」
「ひどい!なんかできますよ!」
「…じゃあ、玉ねぎの皮を剥いてくれ。」
「らじゃです!」
手を洗って降谷さんの隣で簡単な作業をお手伝いする。皮を剥くくらい、私にだってできる。まさか上司とこんな形で横に並ぶなんて思わなかったけどやっぱり降谷さんの隣は嫌いじゃない。
「降谷さん〜これいつまで剥くんですかあ?」
「おおおおおまえ!玉ねぎ見たことないのかバカ!」
「え?え!?」
「こんなに身まで剥きやがって…。」
「す、すみません…これ、身だったのか…。」
「想像以上のポンコツだな。もういい、座ってろ。」
「や、でも、」
「座ってろ。命令。」
「は、はい…。」
私はしょぼとし、キッチンから身を引き言われた椅子に座った。逆に何でもできる降谷さんが怖い。超人すぎる。
「あまり見ているな。」
「あ、すみません。」
降谷さんをガン見していたら怒られた。目の保養になるのに残念。私は携帯に目を向け、連絡のチェックやニュースなどを無駄に検索した。少しすると部屋にはいい匂いが漂ってきて、私は足をパタパタとさせた。
「いい匂いがします!降谷さん!」
「もうすぐできる。」
「わーい!あ、何かお箸とか出しますか!?」
「ああ、この奥の棚に入ってる。」
「御意です!あと、コップコップ、」
「上の棚だ。届かなかったら後で取るから、」
「取れますよっと、うわ〜おいしそう!」
「まだ待て。飲み物適当に冷蔵庫から取っていいから。」
「はーい!降谷さんは?」
「俺はビールだ。」
「えー…じゃあ私もいただいていいですか?」
「構わん。」
「やった!」
私は500缶のプレモルを2缶持ち、テーブルに戻る。続々と料理が運ばれ、まるでお店さながらの出来に大興奮だ。
「すごおい!!」
「これくらい作れるようにしろよ。」
「んなむちゃな!」
「よし、食べよう。」
「はーい!じゃあまずお疲れ様です〜乾杯〜!」
「お疲れ。」
「いただきます〜!」
「どうぞ。」
口に入れれば絶妙な味加減で頬が溶けそうだった。何を食べるにも美味しい、美味しいと絶賛の嵐だった。降谷さんは料理人になるべき人だったのかもしれない、そうとも伝えると普段は見せない笑顔を見ることができた。
「ハー…美味しかったです。」
「それはよかった。」
「お腹いっぱい…幸せ…。」
「辻川、もう一本飲むか?」
「飲む!飲みます!」
「じゃあ軽いつまみも作ろう。」
「ええ!つまみも手作り!?降谷さん居酒屋開けますよ!」
「さっきはフランスのシェフだったのに?」
「それはそれ、これはこれです。」
「はは、全く…辻川には笑わせられっぱなしだな。」
「たまにはいいんじゃないですか?いっつも降谷さんこーんな顔してますし?」
「…そんな顔はしてない。」
「い、いひゃいでふぅ、はなひて、」
おつまみを持ってきた降谷さんにそのままほっぺたを抓られる。あーこれ絶対赤くなるやつだ。
「お前ほっぺたまでもちもちなんだな。」
「…いてて、なんすかそのセクハラ発言は。」
「セクハラじゃないだろ。」
「じゃあ今のはパワハラです。」
「…誰も見てないから関係ないな。」
「あ、ひどい!ひどい上司だ!」
「上司がビールもってきてやってんだから大目に見ろ。」
「勿論です。ありがとうございます。」
私はぷしゅといい音を出して2本目を飲む。どうしよう、最高なんだけど。これで明日仕事がなければもっと最高なのに残念だ。
その後もくだらない話は続き、私はついつい忘れていた。終電の時間を。