例えばの話です

「どうぞ。」
「どうも。」
「2回目となると慣れました?」
「いいえ、全然慣れないのでお兄ちゃんの情報聞いたら帰ります。」
「あはは、コーヒーでいいですか?」
「はい、ありがとうございますっ。」

安室さんの後ろを歩く。この人改めて見ると大きいな。お兄ちゃんもこれくらいだった気がする。

「みのりさん?どこまでついてくるんですか?」
「あ、すみませんっ。」
「お兄ちゃんと間違えちゃいましたか?」
「そ、そんなんじゃないです!お兄ちゃんは安室さんと比べ物にならないくらいかっこいいんだから!」
「そうでしたね。そこに座っててください。」
「はーい。」

パタパタと走って戻ってダイニングテーブルのある椅子に座る。程なくするとマグを持って安室さんも向かい側に座った。

「で、お兄ちゃんの何がわかったんですか?」
「そうですね、じゃあその前に、」
「あ、お金ですよね。すみません、まだ40万程度しか集まってなくて、」
「お金は結構です。それじゃなく、まずはみのりさんのことを教えてくれませんか?」
「…ハ?」

この人は何を言ってるんだ?お金はいいだの、私のことを教えろだの言ってる意味がよくわからない。そう思っているのが顔に出ていたのか、安室さんはまた笑っていた。

「安室さん、何考えてるんですか?」
「いや?別に?」
「…そもそも本当に探偵なんですか?」


その質問に対して動揺はない。どうやら本当に探偵業を行っているようだ。


「失礼ですね、僕は毛利先生の弟子ですよ?」
「…でも何かうさん臭くて。」
「それ本人に言います?」
「すみません、嘘がつけなくて。」
「まあいいです。まずみのりさん、あなたに質問があります。」
「…はい。」
「例えばお兄さんに関するある秘密を知ってしまったが故、あなたの命に保証ができないとなった場合、それでもお兄さんのことについて知りたいと思いますか?」


例え話にしては、この人の目が真剣すぎる。これはきっと、例え話じゃない。私にどれだけの覚悟があるか、試しているんだ。

でも安室さん、残念。私にそんな質問、必要ないんだよ。


「当たり前ですよ。」
「…死ぬかもしれなくとも?」
「はい。」
「その情報が嘘だったとしても?」
「それは許せませんが。」
「例え話です。」
「そうですね、例え話ですもんね。」
「ええ。もう少し例え話をしましょう。そうですね、じゃあ…その秘密を知ったのに、お兄さんがあなたに会いたくないと言ったら?」


その返しは、想定外だった。生活感のない、無機質な部屋で静寂だけが2人の間に流れた。