上司にとって私は只の部下


今日は年に2回しかない貴重な公安部の飲み会だ。実はこの日を楽しみにしていたりする。もちろん普通の民間人が利用する居酒屋などは難しいため、個室の黙秘権が効く料亭のようなところを貸し切っての飲み会だ。そういうところのご飯もお酒も美味しいうえに、経費から出るためお金はかからない。最高の極みだ。

「やーました!早くいこ!」
「…お前よく平気な顔していられるよな。」
「え?なんで?」
「普通上層部もいる飲み会なんてこええだろ…。俺未だに降谷さんこええからな。」
「降谷さんは大丈夫、山下が思ってるような人じゃないから。」
「それはお前だけ特別だからな。普通にこええよあの人。」
「えー、でも先輩たちと飲めるなんて本当に機会無いじゃん?それに今年は華をつけたいからって公安とも交流のあるシステム課の女子たちも来るんだって!楽しみじゃん!」
「あー公安だとお前女子1人だもんな。」
「そう!友達ほしい!」
「まあ声掛けることすらできないと思うぜ?多分あの人ら女の子と喋りたくて仕方ないと思うから。」
「…私だって女子じゃ!」

同期の山下と一緒にお店に行くと、既に出来上がった上司たちが楽しそうにお酒を飲んでいた。

「お疲れ様です〜!」
「おお、辻川!こちらへ来なさい。」
「わー理事官お久しぶりです〜!!最近お見かけしてなかったですがお元気でしたか?」
「ああ。元気だよ。」
「あ、すみませんっわあ理事官に注いでもらっちゃった、乾杯ですっ!」
「乾杯。お前はいつまでも可愛いなあ。」
「えへへ、そんなこと言ってくれるの理事官くらいですよ〜!」
「相変わらず扱かれてるかい?」
「扱かれてると言うか、甘やかされてると言うか…。」
「降谷くんか。」
「ふふ。そこではいって言ったら降谷さんがもしかしたら何か言われちゃうかもしれないので誰というのはやめておきますね。」
「全く、良い部下を持ったものだ。」

理事官は昔からこんな私にとてもよくしてくれた。ただ私も今年27歳になったのに、入社当初のような扱いをしてくることに嬉しいような、複雑なような気持ちでいっぱいである。理事官とお話をしている最中、ふと周りをみると「よくあいつ平気な顔して理事官とお酒を飲んでるな」という目で見ているのがわかる。はっはっは、羨ましいだろ。

あと、目に付いたがシステム課の女子たち。何とビックリ、3人もいるのに3人中2人は降谷さんの周りを囲んでいた。可哀そうな先輩たち。というか、降谷さんもでれでれしちゃって楽しそうだなおい。

「何か気になるかい?」
「…理事官、分かって言ってますよね?」
「ははは、若い者は青くていいな。」
「も〜。あ、そうだ理事官って結婚してましたっけ?」
「ん?してるさもちろん。」
「えーいつですか?」
「そうだなあ…20代の頃だったか。」
「へ〜…私もやっぱり20代のうちに結婚したいなあ…。」
「じゃあうちの息子なんてどうだ?」
「え?おいくつですか?」
「今年29歳、ちょうど降谷くんと同い年だな。」
「…ああ、そうなんですねえ。」
「息子はあえてこの道に進まず教員の仕事をしている。俺に似てなかなかハンサムだぞ。」
「え〜じゃあもう彼女いるんじゃないですか?」
「いや、最近紹介までされた女性と別れてしまってちょうど傷心中なんだよ。だから辻川のような女性だったら俺も安心して紹介ができる。」
「…結構まじじゃないですか。」
「ああ、おおまじだ。お前を娘にできるなんて俺にとっても万々歳だからな。」

はっはっは、と少し大きな声で言い私の背中を叩く。やっばい、みんなに聞こえてたら気まずいなと思いつつ理事官の本気なのかふざけてるのか分からない冗談を笑いながら受け流そうとすると、なぜか私の横に先ほどまで女の子たちと楽しそうにお喋りをしていた降谷さんが来た。

「理事官、お猪口が開いています。」
「ああ、降谷くん。来ると思って空けておいたんだよ。ありがとう。」
「…あ、じゃあ降谷さんのは私が注ぎますね!」
「いやいい。」

な、なんだその態度は。いつも私に対してへらっというかデレっていうか…そんなきつい対応してなかったのに。私は注ごうと手を出した黒ラベルを置き、ちびちびと自分のお酒を飲む。というかこの席、理事官と降谷さんってなかなか大物揃いすぎる。逃げていいかな。

「先ほどちらっと耳に入ったんですが、辻川が娘になるとはどういったお話だったんですか?」
「やっぱり聞こえてた…。」
「いやな、辻川が結婚したいと言っていたから俺の息子はどうだという話をしていたんだよ。」
「ほう。そうでしたか。」

やばい、何か変な汗掻いてきた。私もはははと空笑いをするも、隣に座る降谷さんの顔が笑っている割に怖い。

「ま、まあ御冗談ですよね、理事官!」
「おや?私は結構本気だったがね?」
「えー…そ、そうなんだー…。」
「降谷くんはどう思う?いいと思わないか?」

そこで降谷さんに話振るの!?てか絶対何か理事官楽しんでる!!ニヤニヤしてるもん!!やばいここから抜け出したい。私はガタガタと手を震わせながら日本酒を一気飲みした。

「いい話だと思いますよ。」
「…え?」
「辻川も今年27歳ですし、女性の結婚年齢として適正でしょう。」
「ほー、じゃあ降谷くんは辻川が結婚してもいいと?」
「彼女がしたいというのであれば、いいのでは?」


ガツーン。何だか頭を固いもので叩かれたような感覚。

いや、なんで私がショックを受けているのかはわからないけど、てかこのショックの内容って何?別に私と降谷さんってただの上司と部下じゃん。何を今更、

「辻川…?」
「あ、え、と…すみません!何だろこれ、あれ、早速酔っちゃったのかな!あはは、すみません。場を崩すようなことになっちゃって、」
「お、おい、」

よく分からない。分からないけど、ショックだった。私は降谷さんから伸びた腕を振り払い、理事官にお手洗いに行くと席を立った。


何で涙が、出てきてしまうんだろう。