上司の顔が綺麗なのが悪い
「なあ、答えろよ。」
絶体絶命。降谷さんに追い込まれ、私は逃げ場を失ってしまった。顔を上げると降谷さんは何か楽しそうな顔してるし、本当に腹立つ。でも自分の中のこの感情が分からないくらい子供でもない。
そっか、私いつの間にかこの人のこと好きになっちゃってたんだ。でも公安部での職場内恋愛なんて聞いたことない。まあ女が私だけというのもあったんだけど、そもそもこれはいいものなのか。あああ理事官に聞いておけばよかった。
「辻川?」
「うわあああ!顔が!近いです!やだ!」
私はドンっと思いっきり肩をはねのけると降谷さんが少しよろっとした隙を見て間一髪逃げることに成功した。…と思いきや腕が掴まれていて完全に逃げることはできず絶体絶命の状況には変わりなかった。
「俺を見ろよ。」
「ぅ、むりです、むりむり!」
「どうして?」
「そ、それは…。」
「辻川、」
「っぅ〜〜、か、か、顔!」
「は?」
「顔がいいんですよ!!降谷さん、もう顔がいいんです!!」
私はそう叫ぶとぽかんとした表情で私のことを見た。好きというにはまだ恥ずかしくて、これが今の私にできる精一杯の言い訳だった。
「顔?」
「そう、顔!ご自分でお分かりかと思いますが、顔がいいんです!!」
「…つまり辻川は俺の顔が好きだ、と。」
「へ?あ、いや、ま、まあそういうことです。」
本音を言えば降谷さんみたいな顔がタイプというわけではない。私は黒髪眼鏡が好きだし、どちらかというとタイプなのは風見さんだ。でも降谷さんは派手で目立つ顔立ちをしてるから目の保養ではあった。というかこの人の顔を綺麗じゃないと言う人がいればそれは絶対僻みだ。綺麗以外の何物でもない。
私は恐る恐る降谷さんの顔を覗くと、顎に手をあてお馴染みの考えるポーズをしていた。しかもかなり神妙な顔で。
「あ、あの降谷さん?」
「……。」
「つまりその、だから、降谷さんはもっと自分の顔の良さを自覚して距離感を考えてほしいというか、」
「お前が、俺の体も心も好きになるようにしてやる。」
「…ハ?」
「覚悟しておくんだな。」
そう言って私の頭にキスをすると降谷さんは直ぐに宴会に戻って行ってしまった。私はへなへなと座り込み、そこからなかなか動けなくなった。
今、セクハラ上司!と罵る気力はなかった。