真っ向コミュニケーション
今日の試合のスタメンは宮さん、そして試合は上々と聞いた。私は試合を見ることは出来ず事務仕事をしていたわけだけど、もう1か月後には国際親善試合が始まる。そこからはずっと試合続きで最終目標とするワールドカップを迎えることになる。楽しみでいて、緊張感が高まる。
「あー辻川さんっ!」
「……日向さん、お疲れ様でした!」
「お疲れ様です!」
「もう最後の試合終わりましたか?」
「さっき!悔しいけど結局1軍にやられっぱなしでしたよ〜やっぱ強いですね、まあ俺も負けないけど!」
「ふふ、応援してます。」
「あ、そういえば影山がさっき探してましたよ!こんな血相して、何かあったんですか?」
日向さんはこれが影山さんのものまねらしく眉間に皺を寄せた。でもそんな姿が想像ついてしまって思わずどうしよう、と声に出してしまった。それを聞いた日向さんは直ぐに心配そうに私を見つめる。
「影山、迷惑かけてるんですか?」
「あ、いえそういうわけでは……、」
「あいつ中学のころトラウマ級の人間関係のトラブルがあって、まあ何となくわかると思うんですけど人付き合いが下手なんですよ。だから辻川さんにも迷惑かけてるんじゃないかな〜って思って!認めたくないけどあいつとは付き合いなんだかんだ長いし、俺に出来ることがあったら言ってください!」
ニコッと笑い私の手をギュッと握った日向さんはまるで太陽のようだ。しかし影山さんにそんな過去があったとは知らなかった私は、自分が影山さんのことを避けてしまったことにすごく後悔をした。酷いことをしてしまったのは恐らく自分の方だ。
「ありがとうございます、私も日向さんみたいな気遣いができるようにならないとマネージャー失格ですね。」
「えええ!?そんなことないですって!ノヤっさんも言ってました、みのりはすげえって!」
「あはは、全然違うんです。」
「すごいかすごくないかって自分で決めるもんじゃなくて他人が認めるもんって前に誰かに言われました。だからきっと辻川さんはすげえんです。」
「……………」
「だから影山も必死に辻川さんと話したいって思ってるんじゃないかなあ。あいつ、自分より出来る人のことすげえ好きだし!」
「日向!……辻川、」
「おう影山!辻川さんならここに、」
「日向ぼけえええ!」
「んな!?お前俺はお前のことを思って!」
日向さんと握っていた手は離されてしまい、影山さんは少し余裕の無さそうな表情で昨日と同じように私の腕を引っ張った。日向さんは辻川さん影山をよろしく〜!と叫びながらその場から遠ざかっていく。給湯室はこの時間誰もおらず、そこまで行きつくとようやく足を止めた影山さんはゆっくりと腕を離し私の方を見た。
「昨日のこと、話したくて。」
「……避けてしまってごめんなさい。少し動揺してしまいました。」
「俺のせいだから。……俺、お前に恋愛沙汰は絶対ないって言われて、なんか…悲しくて、悔しくなって……それで、気が付いたらその…キス、してて本当にごめんな、さい。」
まるで捨てられた子犬のようで、耳やしっぽがあったらきっと垂れ下がってしまっているに違いない影山さんは本当に昨日の出来事を反省しているようだった。そして出来れば聞きたくなった告白をされるであろう雰囲気を察してしまう。そこはまるで2人きりの世界で、今調整試合のために来ていることを忘れてしまいそうになる。
「俺は…、俺は辻川のことが好きになった。お前がありえなくても、俺はもうお前が好きなんだ。」
「……………」
「だからその…俺と、付き合ってほしいと思ってるから、その…恋愛対象に入れてくれ、…ださい。」
相手は年下の超人気バレーボール選手。普通ならありえないし、これまでも選手との恋愛沙汰は一切一線を超えたことが無かった。だからこの告白も直ぐに断らなくてはいけない、そうわかっているのに。
「私は、その気持ちには…今は答えられません。だって私にとって影山さんは……大切な選手、だから。でも、………」
「…………でも?」
「でも、ダメだってわかってても、最初からずっと…影山さんは私にとって特別で、目が離せない存在だったんです。勿論それはマネージャーとして、というのもありますが、……昨日、キスされて…忘れようと思っても、思い出しちゃうし……もうあり得ない、こんなこと…、」
「……辻川、も俺のこと、好きか?」
「……………」
「言ってくれ、じゃないと俺は自信ない。人の気持ちに疎いんだ。」
「……すき、です。」
一度零した言葉は掬えない。分かっていたのに、目の前の彼の真っすぐな目に嘘はつけなかった。すると影山さんははああ、と大きなため息をつき蹲る。彼のつむじを見るのはこれが初めてだ、なんてどうしようもない思考が過るも私は彼の名を呼んだ。
「影山さん?」
「……両想い。」
「……そ、うですね。」
「まじすか。」
「……知りませんよ。」
「じゃあ付き合ってくれる?」
「……それは、どうでしょうか。」
「え。」
「私はマネージャーです。……選手のコンディションが下がるようなことはしたくありませんので例え付き合ったとしてその中でいざこざが生まれてプレーに影響が出ることが嫌なんです。」
「……俺と同じだな。」
「へ?」
「俺も及川さんに、バレーに恋愛はいらねえだろって思ってて…、その理由がお前の理由と似てる。だからきっとそんなへまはしねえ。」
「…………」
「お前のために、俺はバレーするんじゃない。俺は俺のため、チームのためにバレーをする。それをマネージャーとしても彼女として見守ってほしい。」
「…………」
「だめか?」
影山さんがそこまで真面目に恋愛に対して考えがあることを知らなかった。蹲った彼の前に立ちすくんでいた私はゆっくりと膝を曲げ目の前に座る。そして彼の頭をゆっくりと撫でた。
「じゃあ約束。まず1、関係を他の人には絶対にばらさないこと。2、これまで通り、これまで以上にバレーボールに全力になること。3、お互いの関係に恋愛感情が邪魔になったらすぐに解消すること。これができるなら、その…お付き合い、しましょう。」
「わかった。…キスしていいか?」
「っ…もう、そういう関係になったんです、いちいち聞かなくてもっ 、」
私たちはひっそりと付き合って、ひっそりとキスをした。
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