忘れたい人
翌朝。昨日の夜、影山さんとあったことは綺麗さっぱり無かったことにした。なのでいつもと変わらず起きて顔を洗って歯を磨く、着替えてから簡単に社会人として眉とベースだけ簡単にメイクをし携帯をもって部屋を出た。まずは皆様にロビーへ来て体調報告をする約束なので耳温計とノートを準備し人が来るのを待つ。大体1番手はベテランセッターの佐藤さんなんだよなあ、と思っていると本当に佐藤さんが現れた。おはようございます、と朝から挨拶も爽やかでちゃんとされていて安心する。それから続々とメンバーが現れ、あの人も少し気まずそうにしながらちゃんと来た。
「おはようございます。」
「……はざっす、」
「体温測らせてもらいますね、耳向けてもらっていいですか?」
「あの、昨日は、」
「はい、平熱ですね。体はだるい、痛いところなどありませんか?」
「ない…けど、」
「じゃあ朝ご飯食べて今日も1日頑張りましょう。ではお疲れ様です。」
ちょうど次の方もいたし、変な感じじゃなかったか不安になる。でも影山さんが明らかに昨日のことを話したそうにしていたのは分かっていた。いやでも影山さん、お願いだから昨日のことは私も水に流すし無かったことにするのが1番いい。きっと及川さんと何かしらゲームしたかでそそのかされてやったに違いない、そう思いたい。
「辻川さん?」
「あ、すみません!体温大丈夫です、体のだるさや痛みはありませんか?」
「大丈夫です、ありがとう。」
「いえいえ、では朝ご飯食べて今日も1日頑張りましょう。」
私はマネージャー、こうやって誰一人として贔屓をすることなく仕事をする。選手が万全な態勢でバレーに打ち込めるように、サポートをする。その為にここにいるんだ。
決して恋愛をしにここにきているんじゃない。過去にそういったお誘いが1回もなかったとは言えない。それでも私は首を縦に振ることはなかった。だって私は、みんなのバレーボールが好きだったから。自分勝手な恋愛事情をチーム内に持ち込むわけにはいかない。自分がその輪を乱すなんて言語道断だった。そんなことを悶々と考えていると今1番怒っている人がようやくお出ましだ。
「おっはよ〜!」
「…おはようございます、体温測りますね。」
「あれ、もしかして怒ってる?みのりちゃん、眉間に皺よってるよ?」
「……昨日、影山さんの様子がおかしかったんです。」
「ああ、みのりちゃんもしかして告白でもされた?飛雄、帰ってから布団にもぐって何も言わないんだもん、気になってんのにさあ。」
「っそんなんじゃないです、そもそも及川さんが何かおちょくったんじゃないんですか?」
「え〜何それ、知らな〜い。」
「あ、ちょっと!」
及川さんを追うわけにもいかず、私は悶々とした気持ちで伸ばした腕を引っ込める。その後も選手たちの対応に追われ、朝食が終わった頃にはもうどうでもいいかという気持ちになってしまった。それでも何回か影山さんがこちらに向かって来ようとしたのを感じたけど私はあえて避けるようにした。真っ向からその言葉を向けられたら、私は今どうなってしまうんだろう。
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