年上の正しい行動

普段はしないアイメイクもマスカラまでしてまつ毛を上げ、くるんと毛先を巻いてヘアセット。アクセサリーもお花がついたピアスに母からもらったシルバーのネックレス、大学時代に友人とお揃いで買った指輪なんか付けちゃって気合十分。待ち合わせ時間は18時なのに、12時には家を出て駅ビルにある流行りの洋服があるお店へと入る。そもそも自分にこうやって洋服を買うのもとても久しぶりで何だかとても楽しい。店員のお姉さんと話しながら自分に合ったベージュの膝下丈のワンピースに黒のショートブーツ、触り心地のいいニットの羽織と小さめの鞄を斜めにかけて購入したてのものを全部身に着けてお店を出た。気が付けば時間も16時を回っていて、慌てて行きたかった書店に行ってから待ち合わせのお店へと早歩きで移動した。

【もういる?】

【お店入ってます!辻川で予約いているのでウエイターさんに言って通してもらってください】

【わかった】

連絡が来る5分前にお店に到着していた私は席について羽織をハンガーにかける。もちろん個室だしオーダーはタッチパネルで出来るしなるべく他の人との接触は防げる我ながらいいお店のチョイスだ。少しすると扉がノックされ影山さんが入ってきた。

「お疲れ様です、迷わず来れましたか?」
「……………」
「?影山さん?」

言われた通り影山さんはキャップを深くかぶっていて表情こそ見えずらいけどこちらを見て固まっている。というか私服姿が新鮮で、足長すぎるからスタイルがモデルか?と突っ込みをいれたくなる。どうしよう、なんか恥ずかしくなってきた。

「う、上着!貸してください、掛けるので!」
「あ、」
「固まってないで座ってくださいよ、もう。」
「……だって、なんかいつもとちげえから…、」
「え?あ、そ、そうですよね!お互いいつもジャージだから雰囲気変わりますよね。」
「………すげえ、か、かわ…かわ……」

可愛い、と言ってくれた。2人してボンっと顔を赤くさせ思わず沈黙が流れる。言われなれていないことを言われると、本当にどうしたらいいかわからない。年上の私がしっかりしなきゃいけないのに…。

「ありがとう、ございます。もう、あーあつ……何飲みますか?」
「あー……ハイボールで。」
「了解です、食事とか適当に頼んで平気ですか?」
「おう。あ、だし巻き卵は食べたい。」
「ふふ、分かりました。」

顔の前でパタパタと手で仰ぎながら注文を進める。影山さんも少し落ち着いたのかキャップを外してタッチパネルを一緒に見る。ある程度完了すると直ぐに飲み物とお通しが来たので乾杯をした。

「こうやって一緒に飲むの初めてですね!」
「だな。てか2人のときくらいは敬語じゃなくていい。」
「……そう、だね。私の方が年上だし、そうだよね!」
「ああ。」

最近はどうか、とか今日の昼間は何をしていたのか、とか……どこでも聞きそうな世間話をしつつ、続々と届く食事を食べながらも楽しい時間が流れる。影山さんってクールとか言われてるけど案外お話してくれるんだよなあ。そういえば前に最近話してないから話がしたいって色々話してくれたこともあったっけ…その一生懸命さがやっぱりどこか可愛くてこう、母性的なものを時折感じるときがある。

「でその時に日向がガって現れて、あいつの攻撃には慣れてるはずなのに俺一瞬つられそうになって、それがすげえ悔しかった。」
「そっか。日向さんと本当にいい関係だよね、2人は。」
「別に……ただ早く同じ舞台まで来いとは思ってる。」
「ふふ、いいねえ。なんだっけ、変人コンビ?」
「んな、誰からそれ!」
「誰からでしょう?ヒントは貴方のことを嫌ってる人です。」
「……及川さんか。」
「正解、ねえ何で及川さんはそんなに影山さんのことを目の敵にしてるの?高校のころ対戦したことがあるとか?」

ふとした疑問だった。でも少し、ほんの少し影山さんの表情が曇ったのを私は見逃さなかった。

「高校のころは2回当たった。1勝1敗。」
「へえ、そうなんだ。」
「でも多分及川さんは俺のこと中学時代からよく思ってねえから。」
「……同じ中学だったの?」
「ああ。」

そうか、なんかちょっと繋がってきたかも。日向さんが言ってた”中学時代のトラウマ級の人間トラブル”ってそこに繋がるんじゃない…?そう思うとこの話題は避けた方がいいと思い、私は別の話題を振った。すると影山さんもほっとしたのか先ほどの曇った表情は消え楽しそうに笑っていた。誰だって掘り下げたくない過去はある。それは例え恋人同士であっても全部知らなくてもいい、いつか影山さんから話したくなったら聞こう。そう思いながら、軽く3時間くらいここで沢山の話をした。

「は〜おいしかった!影山さん、ごちそうさまです。」
「ああ、また来たいなここ。」
「ね。ん〜21時か、ここからだったらタクシー乗って帰りましょうか。」
「………まだ帰りたくねえ。」

月9だったら男女逆転のようなセリフ回しをした私たちの間には妙な空気が流れる。すると居ても立っても居られなくなったのか、影山さんが私の手を握った。

「ちょ、影山さん!?」
「寮に戻ったら、…その、こういうこと出来ねえだろ?」
「……確かにそうですが、あなた外でこういうことやってもしパパラッチでもいたら、」
「俺は世界中に言いふらしたいと思ってるから好都合だ。」
「っもう、そういうこと言わないで。」

とはいえこの状況はあまりよくない。こんな時の年上の正しい行動は、一体何だろう。

「辻川、」
「……はい?」
「ホテル、行かないか。」
「っ………」
「俺は、お前が好きだ。」

ここでそういうこと言う!?とツッコみたいのを我慢して私は結局年下男子の言葉に頷き2人で近くにある俗にいうラブホテルへと足を踏み入れた。


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