試合終了、帰国


無事誰一人大きな怪我をすることなくアジア選手権は幕を閉じた。予想を遥かに上回る結果に一同いい感触を掴み日本へと帰国した。今日から2日間は完全にオフを取り、1ヶ月半後にある本番、ワールドカップへと士気を上げることとなる。ひとまず今日は各々日本に着いた足で実家に帰る人や家庭でゆっくり休む人が多い中で寮に帰る人は少なかった。私もどうしようか悩んでいたが、実家に帰るにしても寮から40分程度で行ける場所になるため特になあ…と悩んでいたら影山さんからLINEが入った。

【明日何してる?】

【明日は午後までゆっくり寝て買い物でも行こうかなって思ってます】
【影山さん実家帰るんですよね?ゆっくりリラックスしてきてください】

【行くのやめた】

【え、せっかくの連休なのに!?】

【そしたらあっちが来るって】
【寮に家族って入れちゃいけないんだっけ?】

「影山さんが行ってあげればいいのに……。」

飛行機では確か西谷さんとかと新幹線だなんだって話をしていたと思ったのにどういう風の吹き回しだろう、なんて呑気なことを考えながら寮の決まり事について連絡を返す。

【フロントで許可書をもらえば大丈夫ですよ!】
【手配しておきましょうか?】

【おう】
【あと明日ちょっと時間ほしい】

もしかして家族に何か自分の現状などについて説明したいことでもあるのかな…それを私が助言できる範囲何のことであればいいけど…と思いながら多少の緊張感を感じつつOKですと連絡を返し今日は寮へと戻った。この時まさかあんなことになるとは知れず………。





翌日。

特に時差ボケもなく夜になったら眠り、朝になったら目が覚めた。溜まった洗濯物を処理し、今日は食堂が休みのため自分の部屋でオーブンでパンを焼き、簡易IHコンロで卵とウインナーを焼いて朝食を作る。コーヒーメーカーがカチっと音を鳴らしお気に入りのコップにコーヒーを注いで完璧な朝食だ。

「いただきます。」

両手を合わせてご飯を食べつつ、ゆっくりとテレビを見る朝は久しぶりで気分がよかった。鼻歌なんて歌いながら食べ終わった後の食器を洗って録画していたドラマでも見ようかなと思っていた矢先、影山さんから連絡が入った。

【12時ころでもいいすか】

「あと1時間くらいか…りょーかいっと。」

ドラマを流しつつ、一応影山さんのご両親と面会するのだからある程度しっかりとした服装とメイクをしようと思い数少ない洋服の入ったクローゼットから黒のスキニーと白いVネックニットを取り出し下地から丁寧にメイクを始めた。最後にグロスを塗ったころには既に11時45分を迎えていたので私は急いで部屋に鍵をかけてフロントまで足早に向かった。

「あ、まだ影山さんってこちらに来てないですか?」
「ええ、まだ見てないですよ?」
「よかった、」
「何かいつもより可愛いわね。」
「ええ…やめてくださいよ。これでもしっかり目の服装選んだんですから…」
「ふふ。あ、来たみたい。」
「あ、影山さん!お疲れ様です、ご家族の方は…?」
「っす。裏に車止めに行ってて、」
「了解です。今日何か大会のご説明とか必要だった?」
「いや…あの、ちょっとあっち、」
「?はい、あ、じゃあ佐伯さん影山さんのご家族の許可書受け取りますね。後程お返しに行きます!」
「はい、了解しました。」

影山さんは佐伯さんに会釈をして私の方をちらちらと確認しながらいつもより落ち着きがないように見える。どうかしました?と聞くと言葉にしずらいのか、あー、とかうー、とかそんなことばかり。私はよく分からない様子で後を追うと、前から影山さんのご家族であろうご両親がこちらに向かってきた。

「あら!あなたが辻川さん!?」
「はい、私辻川みのりと申しまして、」
「いつもお世話になってます〜飛雄とお付き合いされてるんですってね?この子大変じゃない?」
「!?へ、」
「辻川がしっかりとしてそうなお嬢さんで俺たちも安心だな!ははは!」
「ええ本当に。よかったわあ、ねえ飛雄?」
「……辻川…?」

まさか、そういう対面だなんて誰も思わないじゃないですか。私はご両親に見えないところで影山さんに軽く叩いた。


「あ、ええと…すみません。私はこのチームのマネージャーを勤めている辻川みのりと申します。」
「あら、彼女の辻川さんとは別…?」
「……その件ですが、」
「別じゃない、俺はこの人と付き合ってる。」

か、影山飛雄〜!!私は必死に何とか言い訳考えている定か、自信満々に肩なんかもっちゃってそんなこと言うんじゃない!私は思わず頭がくらっとしそうになるのを耐え、何とか笑顔を貫く。そしてご両親を目の前にしてちょっとすみません、と影山さんを引っ張り小声でどういうことですかと問いただした。

「いや…なんか、」
「付き合ってること、そんな簡単にご両親に言うんですか。仮にも私マネージャーで仕事をしてる中であなたと出会って、付き合うことになったんです。でもそれってはたから見たら不真面目にも捉えられるじゃないですか…」
「そ、そうか……?」
「そうですよ。もう、言うな言うで事前に相談してよ…」
「…相談したら絶対断られると思ったから。」
「断りますとも。というかやっぱり言うことが少し後ろめたいと思ってるから私が断ると思ったんですよね?それなら強行突破ってこと?ずるいよそれは。」
「…ゴメンナサイ。」

完全に耳も尻尾も下がってしまった犬のようになってしまった影山さんを見てもうため息しか出ない私はこれからどう切り抜けようかと考えているとでも、と言葉を続けた影山さんの言葉を聞き入れる。

「この連休もどうせ彼女もいないんだから戻って来いって言われて、いるって言っちゃったんだよ。嘘つけねえし、付き合ってるのは本当だし。」
「…………」
「……ごめんなさい。」

ご両親様、息子さんは本当に真っすぐにいい子に育ちましたねと伝えたいくらい潔い謝罪だった。あまり2人で話していても印象が悪いし、と思い私はしょぼんとなっている影山さんを無視して振り返った。でも案の定ご両親方も心配そうに私たちを見ていた。

「すみません、実は私たち付き合い始めたのも日が浅く、その上この寮内と言いますか、チーム内では交際を秘密にしているんです。だからその…とりあえずここだと誰が通るかもわかりませんし、食堂にでも行きませんか?今日はお休みなんです。」
「あ、そうだったのね。やだ私ったら大きい声で言っちゃってごめんなさい。」
「いえいえ、ではご案内いたしますね。」



頑張ってマシンガントークみのりが上手く降臨できますように…と願いつつお2人にスリッパを準備してふわふわしながら寮内へとご案内した。



next.託される