いよいよワールドカップへ



今日から始まったワールドカップ男子日本代表。
15日間かけ待ち受ける激戦を福岡、長野、広島で行われるわけだけど、首都圏でないとはいえ日本での開催。そしてネームバリューのでかい大会ともなればファンで駆け寄ってくる方の数はこれまでと比じゃなかった。

「みのり、外ダメだ。お前裏確認してくれ。」
「はい!」

スタッフ一同バタバタと館内を走り回る。本日の試合が終わってこれからバスに乗るというのに表の扉には100人以上のファンの方でごった返しだ。これじゃあきっと出るのに30分はかかってしまう。ファンの方はもちろん大切だ、だけどそれよりも私たちスタッフは選手のことを第一に考えなければならない。

「もしもし、こちらは30名程度、ですかね。」
『了解。じゃあそちらにとりあえず半分は流す。特にあいつらな。』
「はい、了解です。」

あいつら、とは言わずもが今現在日本代表で高人気でいる及川、宮、影山のセッターズ3人であろう。私は恐る恐る先に道を確認するため外に出るとあの、と女性に声を掛けられる。振り返ると数人のファンの方がであろう集団だった。

「な、にか御用でしたでしょうか?」
「スタッフの方ですか?」
「あ、あーええそうですね。」
「影山選手ってこちから出てきますか!?」
「私及川選手見たい!」
「あー…申し訳ないんですがそういうことは言えないんです、すみません。」
「えー教えてくれても良くないですか?」
「ねえ?私たち東京からわざわざ来てるのにさあ。」
「てかお姉さんじゃわかんないんじゃない?ただの体育館のスタッフの人でしょ?」

若さって、すごい。多分大学生くらいの彼女たちの熱意と気迫はすごくて思わず苦笑いをしてしまう。私は言葉を飲み込みとりあえず謝りその場をやり過ごし、彼らが到着すると連絡が入ったのでまた入り口に戻るとキャーという声援と共に想像していた3人と西谷さんら若いU26組が出てきていた。私は彼女たちに負けない声でこちらです!!と声を上げると影山さんがこちらを見て手を上げた。

「(こら、そういうことするな影山飛雄!)」
「キャー!今の影山選手何!?やばい!」
「顔ちっちゃ!てか背たかいしめっちゃかっこいい〜!!」
「こっち来るよ!やばい〜!」
「影山選手!握手してください!」
「キャー!!」

やはりこのままでは結局時間が掛ってしまう、それに恐らくこちらに気が付いた人が流れてきてどんどん人も増えてしまうだろう。私は人をかき分けてとりあえず先頭を歩いていた宮さんを呼び込んだ。

「助かったわ、ありがとな。」
「いいえ。もう及川さん何やってんですかあの人…今日試合出てるのに…」
「ほんまや、明日僕が代わりに出れないん?」
「はあ…みんな出てほしいと思ってますよ、あ!牛島さんこちらです!」
「ああ、すまない。」

皆差し入れを手にいっぱい持って車に来る。もちろん真っすぐに選手に差し入れをあげることは出来ないので車の1番前の席にあるボックスに回収される。続々と中に入ってく人たちを見守る一方明らかに困り始めてるもののファンの人にはちゃんと対応しろと普段から言われてるから我慢して対処してる影山さんと引き換えニコニコ笑いながらファンサしてる及川さんがまだ先にいた。どうするかなあ、と腕を組むと影山さんと目が合い助けろ!と言いたげな表情だったので私は渋々女の子たちの波をかけ、影山さんの前まで何とかたどり着く。

「申し訳ございません!明日もありますので、本日こちらにて選手帰らせていただきます!」
「すみません、」
「影山選手!!サインください〜!」
「影山選手〜!かっこいい〜!」
「本当に申し訳ございません〜!」

私は何とか影山さんと、その少し後ろで未だファンサしてる及川さんを睨み無言の圧を掛け2人を車まで連れ戻す。何回も足を踏まれるしガードしている腕は女子たちの勢いに完全に負けてるしもうここが私の試合場かってくらいごった返しだ。何とか決死の末2人を車に入れることができ、時計を見ると20分かかっていてはあ、とため息をつく。

「お2人とも座ってシートベルトしてください。そしたら出発してください。」
「うっわみのりちゃんひどいね、足元。」
「ああ…全然、気になさらないでください。」
「…………」
「影山さん、早く座ってください。…影山さん?」

影山さんはボロボロになってしまったパンプスとところどころ破れてしまったストッキングを見て何とも悔しそうな顔をしていた。影山さんがこんな顔しなくてもいいのに、と思いつつも私は彼の背中を押して空いている座席に座らせ沈んでいるのもお構いなしにシートベルトを着ける。

「運転手さん、お願いします〜!皆さん、窓の外、ファンの方に顔向けてあげてください〜!」
「おう!」
「あ、あの子可愛い。」
「及川サンそんなんばっかやなあ。」
「そんなことないって〜!」
「……ほら、影山さんも。」

影山さんの後ろの席に隠れるように座った私はそう小さな声を掛けるけど影山さんはその後俯いたままファンの方に顔を見せることはなかった。あー……今日に限って企業側と会う約束でスーツだったからこんな格好だったのもいけなかったんだろうなあ、と思いながら汚れが付いたスカートの裾をぱっぱ、と払った。その様子を影山さんが見ていたことも私は気が付かなった。


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