自分にとって大切なもの


選手はそれぞれ部屋に戻りスタッフミーティングが終わり携帯を確認すると後で連絡しておかないとなあ、と思っていた張本人から連絡が入っていた。ご察し、影山さんだ。

【部屋来れないか?】

「ん〜…22時、か。」

正直会ってしまったらきっと話が長くなってしまう気がして、電話で事を進めたい気持ちもありつつバスでのあの表情を見ると実際に話した方がいいかなあと思うところもあった。明日スタメンではないものの、セカンドとして使われる宣言も監督から受けている。だからこそ、この不安要素は取り戻すべきか、そう思って私は今から行きます、と連絡を入れて影山さんのいる部屋まで向かった。先ほど着替えをしたのでもうボロボロだった足元は見えず、ジャージにスニーカーだからきっと少し話して大丈夫だよと伝えられたらいいなと思いながら部屋の扉をコンコン、とノックするとその扉は開かれた。

「お疲れ様です。」
「お疲れっす、」
「時間も時間だし、ここでいい?」
「…………」
「そんな顔しないでくださいよ。」
「敬語。」
「……そんな顔、しないで。」

私はゆっくり扉を閉めて影山さんの頭を優しく撫でると影山さんは子犬のような顔からため息をついて私の肩に顔を埋めた。身長差もあるから少し窮屈そうなのに、不思議とお互いにとって自然な距離感なように感じる。サラサラで柔らかい黒髪はまるで女の子みたいで、そんなこと言ったら怒られそうだけど私が守らないと、という不思議な気持ちに駆られる。程なくすると今日、と小さな声が続く。

「辻川が、傷ついてるの見て俺…何もできなかった。」
「………あれが私の仕事ですから、」
「でも俺嫌だった。お前にもう、傷ついてほしくないのに。」
「……そっか。」
「どうしたら、もうああならない?」
「…うーん、そうですねえ。でもファンの人は大切にしたいし、あれはもう仕方のないことだと思うんですよ。皆純粋に影山さんたちのことを応援してるだけなんです。だからあの程度、と言ったら癪ですがスタッフ側に我慢させてください。」
「……………」
「私はこうやって影山さんが頼ってくれるだけで嬉しい、ので。」

ゆっくりと状態を起こした影山さんと目が合う。真っすぐで曇りない瞳。言葉が無くても伝わる。きっと彼は納得はいってないけど自分に出来ることはこれ以上ないのだと察してくれたと。

「影山さん、明日頑張りましょうね。」
「………敬語。」
「ふふ、ごめんね、がんばろう。」
「おう。」

私は部屋を出て早歩きをして自分の部屋まで戻った。



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