最後の土地へ


福岡、長野と続いた激闘、そして今回が最後の土地に踏み入れる。日本はメダルの色が何色になるかというところまでの上位接戦まで上り詰めていた。これから行われるブラジル戦、もしこれに勝利することが出来たら日本は金色のメダルに大きな一歩を近づける。そして今日のポジション、セッターのスタメンは――――。

「セッター、影山。」
「っはい!」
「次にアウトサイドヒッター……、」

多分凡人ならこれほどまでの大舞台、そしてメダルの掛かった大一番…そんな状況でスタメンに選ばれていたら心が多少なりとも緊張と不安で押しつぶされるだろう。でもきっとここに選ばれるような人たちは違う。それほどまでの糧がある、自分の努力を、相手の努力を知っている。だから誰一人として不安になっている人はいないように見えた。

「この大会一番の決戦になると言えるだろう、これまでの全てをぶつけてこい。」
「「「はい!」」」
「日本代表の皆様、入場をお願いします。」

円陣を組み、チーム一致団結となり会場へと向かう。私は彼らの背中を見つめていると影山さんが振り返り、私の方を見た。見ていたことがバレたのかと一瞬ドキッとしたけど、影山さんは見てろ、と言ってにやりと笑みを浮かべた。

「見てますとも、……だから勝ってください。」

もう前を向いて会場へと入っていった影山さんには聞こえなかっただろうけど、きっと伝わっている。みんな同じ方向を向いている。選手コールが終わりスタッフ一同コート脇に配置し、うるさいくらいに高鳴っている胸の鼓動を抑えようと必死に掲げられた日本国旗を見つめた。国歌が終われば会場から湧き上がるバルーンの叩かれる音、歓声。そしてスターティングメンバ―がコールされ、さらに盛り上がったのはきっと今大会初めての影山飛雄、スタメン。彼は決してスタメンが出来ない器ではない。寧ろテクニックは誰よりも優れていると言っても過言ではない。しかし今大会、日本待望のメダル獲得を掲げていた我々にとってどうしても試合の流れを掴むに必要なスタメンを選ばれる者は経験を踏んだ選手。それゆえに一番場数が少なかった影山さんは何度も悔しい思いをした。試合後挨拶でも、何度も次はスターティングメンバーに、と声を上げた。そんな彼が今回、それに選ばれたのだ。

「お〜盛り上がってんな。」
「ですね。今大会最大の山場にして最大の盛り上がりってところですかね。」
「見ろ、あの影山の顔。」
「ふふ、まるで試合に初めて立つような顔してますね。」
「あいつのあれがいいんだよな。」

大きな試合の前だというのに、まるでいつもの体育館にいるようなことを志村さんとしてしまう。でもこの大会が終わったら、日本代表というチームは一度解散されまた普段所属しているチームへとみんな戻ってしまう。これは3軍にいた時も同じ気持ちだったけど、やっぱり寂しい。この試合を含め、残り3試合。

「楽しませてよね、みんな。」

ピーッと開始の合図が鳴る。日本代表の、戦いが始まった。


next.幕閉め、そしてこれから。