影山さんからのおねがい


日本がメダルを取ったその日、選手の何人かはそのまま会見やニュース番組に引っ張りだこでその日ホテルに戻れたのは既に日付の変わるころになっていた。私は特に移動の多かった安田さんと主に行動を共にしていた為、会見後影山さんとはまだ話をしていない。とはいえ疲れも溜まっていたし、東京に戻ってから今後のこととか話そうと思い自分が泊まる部屋に入りはあああ、とため息をつきながらベッドにダイブした。目を閉じたら今にも寝落ちしてしまいそう、だけどお風呂くらいは入らないと…そう思いゾンビのように這い歩き何とかシャワーだけでも済ませ自前のシンプルなスウェットタイプのワンピースを着てタオルで髪の水気を吸いとる。もうドライヤーはいいか、そんなことを考えながらうとうとと歯磨きをしているとコンコン、とノック音が聞こえた。

「ん……?」

こんな時間に誰だろう。緊急かもしれないと思い私は口を濯いで慌てて扉を開くとそこにはスウェットを着た影山さんがいた。影山さんは私を見るなりあ、と声を出して気まずそうに顔を反らす。それもそうだ、今の自分はあまりにもさっきお風呂から出ました!みたいな恰好をしている。少し気まずくなってどうぞ、と小さな声で言って中に入ってもらうと扉が閉まると同時にギュッと抱きしめられた。

「か、げやまさん…?」
「っ……わり、少し、自分の気持ちを落ち着かせるからこのまま、」
「………髪、濡れてるんであまりぎゅってすると濡れちゃう」
「…別に、いい。」

ふわりと香るのは影山さんの匂いで、なんだか久しぶりに感じた気がする。行き場を失った両腕をそっと背中に回すとそれに気が付いた影山さんがさっきよりぎゅっと力を込めた。

「お疲れさまでした。」
「……おう。」
「金メダルは取れなかったけど素晴らしい結果だったと思う、って散々言われてると思うけど。」
「ああ、でも次は絶対に負けない。」
「そうだね、期待してる。」

影山さんは抱きしめていた腕を緩め視線が合うくらいの距離感になる。少し熱を帯びたその表情はこちらがドキリとするほどにかっこよくて、視線を反らしたくなる。唇をギュッと噛みしめると辻川、と私の名前を影山さんが呼んだ。だけどその呼びかけに返事をすることは出来なくて、目を閉じる間もなくキスをされる。力いっぱい噛みしめていた唇も緩み、舌先でつんと一度突かれたのを合図に薄く開く。侵入してきた舌は生温かく、私のものに絡み取られると思わず声が上擦った。そのまま表、裏と交互に絡み舌先を吸い上げられるとぞくり、と全身を這う。ようやく解放された時には口元にだらしなく唾液が零れ、それを見た影山さんがぺろりと舌先で舐めた。久しぶりのキスで、私は苦しさと恥ずかしさに息を整えるのに必死でいると影山さんがワンピースの下から手を入れ思わずびくっと体を震わせた。

「っ、ま、ってっ……、」
「………、」
「や、くそくっ…わすれちゃった?」
「……約束、」
「おわったら、旅行いこう、ってっ…そこまで、待つって、」

言ったよ、と整わない息が揺れる中何とか言葉を繋ぐと影山さんはゆっくりと背中に回した腕を離しはああ、と息を大きく吐いて座り込んだ。またレアな影山さんのつむじを見る機会が来るなんて、とさっきまで余裕がなかったくせにそんなことを思ってしまう。

「悪い、忘れたわけじゃない。…けど、久しぶりだったから、ちょっと、…ゴメンナサイ。」
「ううん、ありがとう。」
「俺、辻川に言いたいことがあって、」
「あ、ああそうだよね。なあに?」

私も影山さんに合わせてしゃがみ込むと、気まずそうに視線を反らして口を尖らせた影山さんを見てくすりとしそうになるのを我慢して言葉を待つ。

「俺、来月から1年くらい海外遠征に行くことになった。自分のチームのマネージャーは専属ではないからついていけないって言われて、チームから配属になると新しい人が就くらしい。……けど、それなら俺は辻川についてきてほしいんだ。」
「……………」
「協会の人に相談もした。そしたら辻川がいいなら、って。」
「……そっか。」
「来てくれない…ですか。」

自信なさげな表情。私の返事は、もう決まっているのに。

「影山さん。」
「……な、」
「私でよければ、よろしくお願いします。」

影山さんは私をキラキラとした瞳で見ると口角をぎゅいんと上げておう!と返事をした。私は引き寄せられるまま地面に膝を立てその身に預ける。ふわりと香る影山さんの匂いにきっと私もにやけが止まっていない。


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