オフの日と家族
4日間の完全オフを命じられた。2日間は影山さんと約束をした旅行への予約を取り、今日と明日は各々過ごそうという流れになったので、私は久しぶりに実家へ帰ることにした。
「ただいまぁ、」
「おかえり。お疲れ様です。」
「ふふ、ありがとう。あれ、お母さんは?」
「買い物に行ってるよ。みのりの好きなもの作るんだって気合入れてたよ。」
何の変哲もない、ごく一般的な家庭。貧乏すぎて苦しい生活をしたわけでも、お金持ちで裕福な生活をしていたわけでもない。奨学金で大学に行ったけど、父も母も優しく私はこの家族に生まれてきてよかった、なんて月並みなことを思っている。ペットのまるは私が中学生のころに拾ってきた猫で、未だ健在。ソファに座ると挨拶にだけきて自分の寝床に戻っていってしまった。
「今日は泊っていくのかい?」
「ううん、明日から旅行に行くから帰るよ。」
「ほう、どこに?」
「箱根。」
「いいね、一人で?」
「あー………」
「お?もしかして?」
お父さんがにこりと笑っているのも気まずくて私は咳ばらいをしてそういえば、と会話を変える。最近仕事はどうだ、とかまるの変な寝相についてとか…平和な話を淡々をしているとただいまあ、と玄関から聞きなれた母の声が聞こえた。私は立ち上がって玄関まで行くと両手いっぱいに買い物袋を抱えた母がいた。
「すっごいね。」
「みのり!おかえりぃ!」
「ただいま、だけど今は逆じゃない?」
「ふふ、そうね。ただいま。」
「おかえり。荷物持つよ。」
「ありがとう。お母さん気合入れて買いすぎちゃった。」
「ふふ、何買ったの…あ!これ私が好きな生姜のから揚げ!」
「でしょ〜?ちゃんとお腹空かせてきた?」
「朝から何も食べておりません。」
「それは大変。」
2人でリビングに戻るとお父さんがおかえり、と向かえ購入品の仕分けに移る。その間もなかなか長文の連絡だったり電話だったり、もちろん会いに行くなんてことなかなか出来なかったから話題は尽きなかった。ひと段落つき、お茶を飲みながら3人でソファに座り今回家に戻ってきた一番の報告をするため息を吐く。
「お父さん、お母さん。実は報告があって。」
「え、何?結婚?」
「え、え、」
「いやそうじゃなくて…、あのね。私今回で全日本バレーの一軍のマネージャーをしていたって言ったじゃない?それで、影山飛雄選手って分かる?」
「もちろん、今回影山選手すごかったわよねえ。」
「本当に、まだ若いしこれからが楽しみな選手だ。」
「そう、その選手が来年海外遠征をすることになってね。私もサポートメンバーとしてついていくことになったの。」
そう言うとお母さんが真っ先に眉を寄せたのが見えた。
「期限は今のところ1年くらいって話なんだけど、もしあっちで大きな活躍をしてチームに誘われるようなことがあったらもう少し延長する可能性もないとは言えない。そういった状況なんだけど、私は影山さんの未来を信じてるし任された仕事は最後までやり遂げたいって思ってる。お父さんとお母さんには心配かけるかもしれないけど、行ってもいい、かな。」
少しの沈黙が流れ、妙な緊張感が漂う。そんな中、静寂を破ったのはお父さんだった。
「みのりももう大人だ。やりたいようになりなさい。」
「……お父さん、」
「あっちの環境は大丈夫なの?」
「うん、設備も整ってるし移動も基本的にドライバーさんがいるみたい。」
「……そう。」
「お母さん、連絡ちゃんと返すよ。出来れば電話も、するように心がける。」
「…………」
「頑張ってくるよ。」
「……影山選手と、電話って出来る?」
「へ?」
まさかの母の言葉に思わず気の抜けた声を出してしまう。今日はオフだから出来るかもしれないけど、と言うと影山選手と話がしたいと母が真剣な声で言ってくるものだから私はその場で携帯を取り出し影山さんの番号をタップする。あ、電話する前に付き合ってることを言っておけばよかった、と後悔した時には影山さんと電話が既に繋がった後だった。
『辻川?』
「あ、お疲れ様です。今大丈夫ですか?」
『大丈夫。仕事の連絡あったか?』
「あーえっと、そのことで今実家に来ていて経緯を話してたんですけど、少し母が話したいって言っていて……」
『…………』
「あの、電話変わるので話してもらっても、」
『どこだ?』
「へ?」
『実家、どこだよ。今から行く。』
「ちょ、え?」
『住所送ってくれ、じゃ。』
そう言って電話を切られてしまった私は思わず呆けているとお父さんが心配して名前を呼んだ。え、え、もしかして本当に来るのかあの人は…、と若干パニックになっていると影山さんから催促の連絡が入る。少し迷った挙句、私は住所を送り携帯を置くとふう、と息を吐く。
「あの、影山さんに電話で話したいって言ったら直接来たいって…言われたから、来るみたいなんだけど、」
「「え!?」」
「あは、は…あの、影山さんってテレビで見ている印象まんまの人間なの。バレーが大好きで、強いのに貪欲で、すごく真面目で少し天然なんだけど実は不器用な人。だから伝え方も多分電話じゃ自分が思うように出来ないと思ったんだと思う。」
「……みのりは影山選手と付き合ってるのかい?」
「……うん。実はお付き合いしてる。」
「まあ……。」
「でもだから一緒に海外まで着いていくってことじゃないの。彼のバレーボールの対する熱意だったり、そういったことも含めて期待してるの。期待しているからこそ、サポートしたい。世界と戦える選手に育ってもらいたいって思っちゃったんだ。」
お母さんは私の言葉ににこりと笑ってそっか、と答えた。先ほどの緊張感はもうそこにないように感じる。
「じゃあお母さんもそんな影山選手に期待しようかな。」
「……うん、してほしい。」
「母さん、部屋もっと綺麗にした方がよくないか?」
「そ、そうよね、影山選手がうちに来るんだもんね?みのり、あんたトイレ掃除!お父さんは掃除機掛けて!」
「分かった!」
「ちょ、あのあまり重いこと言わないでよ?」
「重いことって?」
「………結婚、とか。そういうの!彼まだ若いし、今はそういうことを考えないでバレーボールに集中してほしいから。」
「あれ、影山選手って何歳だっけ…」
「みのり、あんた年下の男の子ゲットしたってこと…?すごいじゃない…。」
「あーもう!とにかく結婚はNGワードだからね!」
私は立ち上がりトイレ掃除に向かった。リビングから笑い声が聞こえる、それに少し恥ずかしさと嬉しさがこみ上げた。
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