コヅケンにハマりたい


初めて会った日から既に2ヶ月が経っていた。相変わらず仕事はあるし、研磨の好みもんからないけど大好きな気持ちは募るばかりで。
合計4回のランチと3回のディナーに行った。それでもコヅケンとして上がる動画は欠かさず見てたし、生放送だって逃すことはない。ああ、何て贅沢なファン活動…と思いつつも今はコヅケンとしてだけでなく研磨という人間が好きだから、いつか彼と付き合えるようにもっと頑張らなくてはいけない。

「ね〜山ちゃん。私にぜーんぜん恋愛感情向けてこない好きな人に対してどうすれば傾いてくれるかなぁ…」
「……そんなことあり得るの?あの辻川みのりが片思い?」
「そーなの。結構頑張ってるんだけどなぁ〜」
「その乳出して落ちないなら貧乳好きだろうから諦めるしかないね、減らすことは出来ないし」
「…………ちょっと思ってたんだよね、もしかしたら貧乳好きなのかもって……」

2回目にあったランチで言った彼の言葉。

『……おれ性欲が0なわけじゃない。夢見てるのかもしれないけど、男だから生理的現象は起きるし、起これば処理する。それは辻川さんが言う大嫌いな男と同じだよ』

正直とても興奮した。研磨から性欲という言葉が出ることもあまり想像付かなかったしひょっとしてそういう点が欠落してるのかもと思っていたので、研磨も人の子なんだなぁと再確認した。わたしが言いたかったのは本能的な性欲の気持ち悪さではなく、理性的な性欲なものである。だって私も時々ムラムラする時くらいあるもの。人間だから仕方ない。
しかしそうと分かれば私の身体も武器になるかもしれない!と、思ってもみたけどちょっと胸元が開いた服を着ても研磨に一切ウケてる気がしなかった。

「貧乳かぁ〜…………これ脂肪吸引とかで減らないかなぁ」
「怖いこというのやめなね!?あんたの商売道具!まったく!」
「……分かってるけどさぁ、好きなんだもん〜……」
「……はぁ、そんな乙女な顔して。カメラマンが勘違いしそうになるよ、切り替えしなさいね」
「そこはしっかりやります〜」

今日は研磨との約束もない。仕事が終われば真っ直ぐに家に帰るだけだ。次に会えるのは明日のランチ。ランチって…と思うけど案外ランチデートも悪くなくて絶賛ハマっている。研磨だから、っていうのは必須だけどね。











「お疲れ様でした〜」

もうマネージャーは先に行ってしまったので1人でスタジオを出た。帰ったら足マッサージしてパックしないとなぁ、明日はなに着ようかなとそんなこと考えていると辻川さん!と声を掛けられる。振り返ると先程の現場にいた方だった。

「はい?」
「あの!先ほどの撮影、めちゃくちゃエロくて最高でした!今日この後帰宅って言われてますけどよかったらご飯でもどうですか?親睦も深めたいですし」

はぁ?と口から出なかっただけ偉いと思いたい。下心しかありません、みたいな猿男に耳を傾けるだけ時間の無駄と思い私はいつもの通りやんわりお断りするといやいや!いいじゃないっすか!と日本語が通じない様子。

「私明日も早いので…お疲れ様です。」
「俺ずっと好きだったんですよ!辻川さんのこと!」
「…………」
「だからワンチャンでいいので!お願いします!」
「……これ以上付いてくるなら御社の方に報告させていただきます。私職場に一切のプライベートは置かないので」
「……いいから来いって!俺はな、お前を抱ければもうこの会社に未練なんかないんだよ!」
「っや!痛い!離して!」

やばい。腕を掴まれて確かあと300m先にはホテルがあった気がする。きっとこの人は本気だ。でも私だってやられるわけにはいかない。
それでも男の人の力に敵うはずもなく、ずるずると引きずられる。人通りの少ない道、なんかもう絶望的すぎて泣けてくる。本当男なんて大嫌い。

「なーにやってんの」
「っ、た、助けて!お願い!」
「嫌がってるみたいじゃん、何これ強姦?」
「ち、ちがう!いいからどけ!」
「まずその手離せよ、痛がってんだろ」

救世主は背が高くて髪が変に靡いてる妙な威圧感のある人だった。彼の高圧的な空気に怖気付いたのか腕の力が弱まった瞬間私は腕を振り下ろし救世主の方へと駆け寄る。本当によかった。窮地を免れた安堵からか足の震えが今になって増す。それに救世主も気が付いたのかちょっとその上座ってて、と自分が持っていた鞄を下に落とした。高そうな鞄、だけど今はそんなことよりも一歩も動けそうになくてペタンとその場に座り込む。
すると救世主は猿男の腕を掴んで警察呼んだからじっとしてろよ〜と言っているのが聞こえた。猿男は暴れてるようだけど、もう顔も見たくない。私は俯いているとドンッと生ぬるい殴られる音が聞こえ思わず顔を上げると救世主が殴られていた。

「や、やめてっ!」
「ってーな…」
「お前が悪いんだろ!俺と!俺とみのりちゃんとの時間を遮って!お前が!!」
「はーいこの俺の顔面も証拠になったからな〜強姦未遂に暴行、お前どんどん容疑たまってくぞ?」
「俺は悪いことしてない!」
「オラ、立てや。殴ったのお前だろ、立て」

程なくするとパトカーの音がして、無事に猿男は連行されていった。私と救世主は一緒に病院に運ばれることとなり、同じ車に乗り込んだ。隣に座った彼の顔は口が切れていて少し血が出ていて、頬も少し腫れてるようだった。

「……ごめん、なさい」
「え?あーこれ?逆にラッキーじゃない?あいつの罪増えたし。てかこんな時にごめん、俺めっちゃ興奮して早口なんだけどもしかして君辻川みのりちゃん?」
「…そ、そうです」
「わーお俺グラドルで1番好き。超ファンデス」
「……ふふ、ありがとうございます」

なんだろう、嫌な気分はしなかった。
彼がどういう意図でたくさん話しかけてくれたのか分からないけど、車内が明るく盛り上がったおかげで私の精神はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
救世主こと、黒尾さんに私は助けられました。