このグラドル生きてる


取引先のメールや株価指数、最新アプリ情報の確認やバグチェックなど一通りの業務が終わると簡単に進めているゲームを行いSNSの更新と動画の編集をする。今日の業務もまあ片付いてきたし、夜ご飯でも買いに行こうかUber eatsするか悩んでいた時にスマホに1つの連絡が入った。

【今みのりちゃんといる。強姦未遂事件に巻き込まれて傷心してる。研磨来れば元気出るんじゃねえか?】

「は……?」

辻川さんと、クロ……?なんで?
というか強姦未遂事件って…、彼女は大丈夫なのか?
頭がサーっと冷えていく。そして気が付けば家を出てクロに送られてきた住所宛へとタクシーの乗って伝えていた。理由は分からないけど、クロと一緒にいるなら平気なんだろう…けど、彼女のメンタルは大丈夫なんだろうか。
元々男への被疑的感情を持ちその存在に苦しめられてる彼女が強姦紛いの事をされたら、いよいよ俺も話せなくなるんじゃないの?クロはああ言ってるけど、正直自分が彼女をどうこう出来る自信は全くなかった。
それでも彼女のストレス解消でもいい、救えるなんて偉大なこと思ってない。少しでも楽に出来るのであれば、……ああ、なんかもう自分の感情が珍しくぐるぐると回っている。
こんなこと初めてだ。

「お客さん、この先道混んでるみたいですけど…」
「……あーじゃあここで」

運動なんて部活を引退してから全然やってない。ましてや走ることなんて現役の頃だって苦手だった。
それなのに自分の足は車から降りると駆け出している。変な話だ。こんなこと、無駄なのかもしれない。非合理的なことしてるって自分でもよく分かっている。
それでも足は止まらなかった。

そして2人の姿が小さく見えた時、おれは彼女の名前を叫んだ。
聞こえてなくてもいい、ていうか聞こえていないでくれ。みっともないし、なんかドラマみたいで恥ずかしいし、それなのに肩で息して足もガクガクでださい。
それなのに彼女があちらから走ってくる姿が見えた。

「研磨っ!」
「っ、」

へろへろになった俺の胸の中に彼女は飛び込んできた。そこでがっしり受け止められるほど筋力もなくてそのまま自分ごと後ろに倒れ込んだ。いや、たまたま路地の花壇にツツジの草が生えててよかった。

「けんまぁ、」

あー…あったかい。人の温もりをゆっくり感じてる場合じゃないのは分かっている、けどこの人は本当に温かくて、生を感じる。

「ちょ、体制やばいから…」
「……ん〜」

彼女は身体を起こしてくれ、おれもようやくちくちくとする草の上から解放された。ちゃんと立ち上がると抱きしめてもいい?と聞かれ、戸惑う気持ちを隠して頷いた。
改めてこうギュッとされると女性特有の柔らかさを全身に感じるわ何かいい匂いするわで完全に自分の身体が硬直してしまう。おれが彼女を安心させたいのに、邪念が入ってくる男の本能的な感情に苛々さえする。

「研磨、ドキドキ言ってる」
「っ仕方ないじゃん、久しぶりに走ったし、状況が状況なんだから」
「……私のために走ってきてくれたの?…今も、抱きしめられてドキドキしてる?」
「……してるよ、慣れてないんだから」
「…………嬉しい。」
「そんなことよりクロから聞いたけど平気なの?てかなんでクロと知り合いなのかまずそこから知りたいんだけ「研磨、」

彼女はあまり人の話しを遮ることがない。そんな彼女が人の話ぶった切って名前を呼んだ。
おれは腕の中にいる彼女に目を向けると彼女もおれのほうを見ていたようめ視線が合う。その瞳は薄ら潤んでいて、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。

「今日、家帰りたくない」
「………………」
「1人でいるの、こわい」
「……辻川さん、」
「…………一緒にいて」

こんなこと言われるなんて想定外だった。これがクロの悪知恵かもしれないし、彼女がおれを試していたとしても、微かに震えてる右肩はきっと本物だろうと思っておれはいいよと言って背中に腕を回した。