コヅケンはやさしい
研磨に会う数時間前。
「みのり、ちょっといい?」
「はい?」
めずらしくマネージャーの気まずそうな表情。私前の現場で変なことやっちゃたかな、と突然心配になる。
「最近どう?」
「えっと…普通?」
「そう、……本題だけど、驚かないで見てほしい」
「…………なに、これ」
渡されたのは写真と見るからに字で埋め尽くされた手紙だった。見なくても分かる、多分やばいやつ。写真はもはやどこで撮られたのか分からないわたしの着替え写真から自宅に入る様子の写真、後は研磨と一緒にいる時の写真だった。
「彼氏いるのはいいの、だってそのおかげでみのりさん最近調子良さそうだし。問題はこれ、家だよね?」
「……はい、」
「恐らくカメラ仕掛けられてると思う。今日は経費出すからホテル泊まって、その後はこちらで対応するからまた明日以降展開話す…みのりさん?」
「……、彼に、迷惑…掛かっちゃいますか……?」
「え?いや、一般の方でしょ?なら多分大丈夫だと思うけど……」
「……どうしよう、もし彼に迷惑掛けてしまうことになったら……わたし生きていられません、」
膝から崩れる、ってこういうことを言うんだろう。わたしはぺたりと座り込んで込み上げてくる涙が止まらなかった。
もし、研磨がコヅケンとバレて、コヅケンがグラドルなんかのわたしと付き合ってる…なんてこと世間に知らされたら、研磨の印象が悪くなったらと思うと苦しくて堪らない。でも別れるなんてことも出来ないし、そんな自分も嫌になる。
「本気で好きなんですね、彼のこと」
「っ……せかいいち、すきぃっ…」
「ははっ、みのりさんがそんなこと言う相手コヅケンだけかと思ってましたよ!」
「……(だってそのコヅケンだから、なんて言えないけどっ、言えないけど〜!!)」
「今日は彼氏さんのところ行けますか?その方がみのりさんも安心するでしょう?家のことは今日この後うちの方で行かせてもらうのでまた進捗連絡します」
「……はい、連絡してみます」
「……よかった、みのりさん。ちゃんと人間らしく生きてて。」
でも自分のことも大切に考えてくださいね、と山ちゃんから声を掛けられた。そんな状況下で研磨に電話をして、家に入れてもらった。何も言わなくても抱き締めてくれて、家にいてもいいと言ってくれて…改めてわたしはこの人と付き合えてよかった、そう思った。
「みのり、マネージャーから連絡あった?」
「あ、うんっ。とりあえずカメラ見つけたみたい。撤去したから今入れるって…、あと今から来るなら帰り送ってくれるって…」
「じゃあ行こうか」
「……マネージャーと顔合わせることになっちゃうけど、いいの?」
「何かまずいことある?みのりが嫌なら行きだけ一緒に行って家で待ってるけど」
「っない!ないない!あの、……付き合ってる、孤爪研磨さんです、って紹介してもいいの?」
「………寧ろおれが心配になってきた。平気かな…」
「え!?研磨は世界一かっこいいし何も問題なくない!?寧ろ私なんかが彼女で申し訳なくなる時たくさんあるし今だって迷惑掛けて、」
「それこそないでしょ。あと別に迷惑なんて思ってないから。……あーせめて服ちゃんとするか…」
ぼそぼそと小言を言いながらちょっと待ってて、と部屋に行ってしまった研磨の後ろ姿を呆気に取られながら見ていた。時間が空くと、言われた言葉の深みが増す。と同時に顔がぶわっと赤くなるのを感じる。
どうしよう、私の彼氏、カッコ良すぎる。
「う〜〜〜…………好きっ…………」
「…………行くよ」
「あっうん!研磨っありがと!」
「もう何回も聞いた」
わたしは研磨の腕を掴み、いつの間にか呼んでくれたタクシーに乗った。その間、マネージャーってどういう人?とかせめて黒髪にしておけば…とか心配そうにしてる研磨が可愛くてまた少し笑ってしまった。
「ここ、です!」
「……いい家住んでるね。さすが売れっ子」
「そんなことないよ〜それに本当にいいところだったらこんなことになってないでしょ?セキュリティ甘かったんだなぁ…」
「……次の家はおれも立ち合うよ」
「……うんっ、あ、そこ座ってて?荷物まとめちゃうね!」
わたしはキャリーケースを取り出しひとまず1週間分くらいの衣服と化粧品や美容系のレギュラーメンバーをポーチに詰める。あとはヘアアイロンと充電器類があればいいかな…案外早く荷造りが終わりそうでわたしはリビングに待たせてる研磨の元へと戻った。
「早くない?」
「ふふふん、あ、もうマネージャー下いるみたいだから行こっか!」
「……うん」
「もー大丈夫だよぉ!わたしの好きな人にダメ出しするような人じゃないから、ね?」
研磨の背中を押し家を出てエレベーターに乗ると下に見慣れた車があった。わたしは手を上げると中にいた山ちゃんが気がついてくれたようだ。わたしの代わりに持ってくれているキャリーを引いた研磨の顔が心なしか緊張しているように見えた。
「お待たせ、荷物トランク詰めていい?」
「はい、あ、初めまして。いつもみのりさんがお世話になってます!」
「あ、いえこちらこそ。……ここでいい?」
「うん!2人で後ろ乗るね〜!」
「はい、えーっと彼氏さんのお家どの辺りです?」
「あ、白金台の方です」
「了解ですっじゃあ2人ともシートベルトお願いします!発車します〜」
「はーい!」
「お願いします」
車に入って研磨の方を見るとこっち見るなと言わんばかりに顔を背けられる。そんなのお構いなしにわたしは腕にギュッとするとちょっと、と声を掛けられてしまう。ふふ、楽しいな。
「あ、ご挨拶遅れましたマネージャーの山下です。」
「あ、孤爪、です」
「……めずらしい苗字ですねえ、コヅメ、さん?」
「まあ、よく言われます」
「……ん?コヅメさん……コヅメ、……え!?も、もしかして!?コヅケン!?!?」
「……言ってなかったの?」
「言えるわけないじゃん……わたし山ちゃんに煩いくらいにコヅケン好きだって言い続けてたし」
「えーー!ちょ、みのりさんどっどこで知り合ったんですか!?やば、すご……え!そっか……そっかーそりゃ必死に自分より彼氏の心配するわけだ!」
「……え?」
「あっちょっと山ちゃん!」
「いやぁね、みのりさん、こんなことがあっても彼に迷惑が掛かるのだけは嫌だとか生きていられないとか言っててね、そんなこと思う好きな人コヅケン以外にいたんですね〜って突っ込んだんですよ!まあそっか、そりゃコヅケンだよねえ!」
「…………バカじゃないの」
「…だって、……でももう!研磨が迷惑に思ってないって言ってくれたからとことん甘えるって決めたの!」
「そうですか、じゃあこちらも安心です。いやぁ……孤爪さん、よろしくお願いしますね」
「……はい」
その後も楽しそうに山ちゃんは研磨に時間の許す限り質問を繰り返していた。家に着く頃にはぐったりとしていたけどキスをして首に腕を回して研磨が欲しいと強請ればその日も優しく抱いてくれた。愛する人とのセックスはこんなにも愛おしい。