その後わたしは影山くんのラインをブロックし、電話も着信拒否した。何だか気分がすっきりした気がした。だけど頬を伝う涙は止めることができなかった。
気が付いたらそのまま疲れて眠ってしまったようで、朝目が覚めたときには布団が掛けられていた。洗面台に行き鏡に映った自分の顔がひどくて、全部を洗い流すようにお風呂に入った。
目を閉じると影山くんのことを思い出してしまった。どうやら意外と彼のことを好きだったらしい。失恋したんだなあ、と思った。
「早いじゃない。」
「ん〜、昨日布団ありがとう。気が付いたら寝ちゃったみたい。」
「いいのよ。みのり、東京でちゃんと楽しくできてるの?そんな顔されたらお母さん心配になっちゃう。」
「…仕事は順調だし毎日楽しいよ。心配掛けてごめんね。」
「…いつでも帰ってきていいからね。」
母のその言葉にまた泣きそうになった。
その日は1日ゆっくりした時間を過ごした。お母さんと公園に行ったり、ショッピングしたり。気が付いたら夜になり、その日はわたしが夜ごはんを作ることにした。
「お母さん嬉しいな〜、こうやってみのりがご飯作ってくれるなんて夢みたい!」
「えーご飯くらいいくらでも作るよ?」
「本当?あ、宅急便かな、ちょっと出てくるね。」
「うん!」
インターフォンが鳴り、お母さんは玄関に移動した。昨日はわたしが好きな食べ物を作ってくれたから、今日はお母さんの好きな食べ物を作ろう。わたしは調理を続けていると、玄関からみのり〜と名前を呼ぶ声がした。
「どうしたの?」
「ちょっと来て。」
「なに?荷物そんなに重い、…な、んで、」
「…辻川、ごめん。」
何で影山くんがここにいるんだろう。理解ができなくて、でも目の前にいる影山くんは今にも泣きそうな顔で俯いていた。
「ちょっと2人で話してきなさい?」
「…話すことなんてない。」
「みのり、」
「こんなところまで来て、迷惑、だよ。」
「っ……わるい、」
「みのり。折角来てくれたのにそんな言い方ダメ。ご飯はいいから、外で2人で話してきなさい。影山くん、みのりのことよろしくね。」
「…はい。」
わたしはお母さんに背中を押され、家を出ることになった。今更何を話せばいいのかわからなかった。
「わたしは、話すことない。昨日電話したよね。」
「…別れるってことか?」
「そうだよ。」
「いやだ。」
「……。」
「何で高橋のこと好きなのに別れないといけないんだ。」
「……、」
「もう、高橋は俺のこと、嫌いになったのか?」
何で影山くんがそんな顔するの?もともとわたしのこと何てあんまり好きじゃなかったくせに。わたしだって泣きたい。
遊びだったんでしょ?そう問いただすのも嫌で、もう早く終わらせてしまいたいと思う。わたしは足を止めて影山くんの方を向く。
「きらい、…っきらい。」
「っ、 」
「影山くんなんて、」
「言うな。」
ずるい。この人はずるい。わたしの腕を引き影山くんに強く抱きしめられる。体が痛くて、私は思わず離れようと力を込めるが意味をなさず、ただされるがままになる。
「いやだ、別れたくない。」
「っ……」
「俺のことまた絶対好きにさせるから、別れないでくれ。」
「…な、んでそんな、好きでもない女と、別れたくないのっ、」
「…は?」
「わたしはもう、苦しいよ、」
そう言えば抱きしめていた力を徐々に緩め、私はその隙を見て彼から離れた。影山くんは放心状態で、暫くすると膝に手をついた。
「ごめんなさい、またいつか、同級生として会ったときには、よろしくね。」
「…… 」
「…、さようなら。」
わたしは今度こそその場を立ち去ろうとした。
「好きだ!」
「……、」
「伝わってねえんなら何回でも言う。辻川のことが好きだ!!お前がいる生活に慣れちまった、もうお前がいない生活なんてできねえ。本気で好きなんだ!」
「……だって、谷地さんと、」
「あんなのでっちあげだ!辻川はあんなニュースと俺の言葉、どっちを信じるんだよ。」
「……。」
「谷地さんとは、辻川のことで相談しただけだ。俺のこと信じられないなら谷地さんに聞いてもらってもいい。」
「……、」
こんな真剣な言葉、真剣な表情…信じないわけない。これで影山くんが嘘をついていたらアカデミー俳優だ。じゃあ、わたしは影山くんにとって本当に好きな人、ということでいいの?いくらそう言われても自信がなかった。
「もう1回、チャンスをくれ。」
「…… 」
「辻川のこと、見返すから。絶対また好きにさせるから、もう会わないなんて言わないでくれ、」
「…影山くん。」
「頼む 」
「…わたし、影山くんと違って地味だし、何も良いところないよ。だから、」
「辻川のいいところは俺が知ってる。お前が知りたなら全部教えてやる。」
「……世界が認める影山くんの凄さに、私は一緒にいて恐れ多さとか、申し訳なさとかがでちゃって…苦しかった。だから、」
「周りなんて関係ねえ。俺は辻川が好き、その単純な気持ちじゃダメなのか?」
影山くんが必死で、さっきから「だからもう終わりにしたい。」と言わせてくれない。きっと今影山くんのことを受け入れても、同じように苦しむのは自分だ。
それならもう、終わらせたいのに。
「……。」
「不安なら、…それでも不安なら、結婚してくれ。」
「は、?」
「俺は今後一生お前を手放す気はない。だから、一生かけてお前のことを愛して、好きになってもらうから、だから、」
「まって影山くん、…ちょっと落ち着いて、」
「俺は落ち着いてるし、本気だ。」
「……こんな、別れ際のプロポーズなんて、聞いたこと無いよ。」
「……。」
「…ふふっ、あはは!ごめ、ふふっ、」
「んな!何笑ってんだボケエ!こっちは本気で、」
「だって、おかしくって。こっちは必死に別れ話してるのに、影山くん、全然聞いてくれないし、終いには結婚しようって、あはは、ほんっと…影山くんって、わたしのこと、好きなんだね。」
「…だからそう言ってるだろ。」
「そっか…、そっかあ。」
「辻川の目も口も鼻も好きだし、自信がないところも好き。声も、仕草も全部好きだ。」
「っ……、」
未だかつて、こんな告白受けたことがない。わたしは恥ずかしさを通り越して泣けてきた。
「な、泣くな、」
「っな、かせてるのはっかげや、まくんだよっ、」
「え、ど、どうすればいい、」
「…やさしく、抱きしめて。」
「……いいのか?」
「そしたら、もう1回すき言って。」
もう耳が痛いほど言ってくれたのに、それでもまだ足りない。影山くんがゆっくりとわたしの傍に来て、優しく背中に腕を回した。そして要望通り、好きだって言ってくれた。
「嫌いっていうのは、嘘。」
「え、」
「…わたし、もう影山くんのこと、大好きだから。」
「っ…もう1回、もう1回言ってくれ。」
「…大好き。」
そういうと溜まらず抱きしめていた力を少し強くなった。わたしも溜まらず背伸びをして影山くんの首に腕を回した。
「自信もないし、可愛くもないけど、私のこと好きって言ってくれる影山くんのことを大切にしたい、です。」
「辻川は可愛いよ。」
「そ、んなこと言うの影山くんだけだよ。」
「そんなことない。」
「…ありがとう。」
「結婚、してくれるか?」
「……まずは、同棲からおねがいできますか?」
「お、おう!」
一歩、わたしたちは前に進んだ。世界の影山くんと平凡なわたしの結婚までの道のりが始まる。
To be continued...?