その問い掛けの意味を探す
夜久さんのサポートにあたってから1ヶ月が過ぎた。最初の2週間こそ何をするにも聞いてきた彼だったけど今やそれも減ってきて簡単な会話なら多少聞き取れるようになってきたと喜んでいた。
多分自然に出来たことじゃなくて、彼が裏でかなり勉強していることは連盟から聞いていたので本当に最初の真面目なイメージから何ら変わり無かった。あとひとつ、予想をしていなかったことが今も続いていた。
「やくさん!このサラダはね、みまがはっぱちぎったんだよ!すごい?」
「おーすごい!さすが美真だなぁ〜」
「やったぁ!はやくたべて〜!」
「まってまってほら、おれ、手、洗わないと」
「そうだー!やくさんいっしょにいこ〜!」
美真が凄く夜久さんに懐いてしまって、初めてご飯を食べにきた翌日からやくさんは?やくさんは?と毎日言うものだから無理言って聞いてみると俺の方こそいいんですか、寧ろすごい嬉しいですって笑ってくれるものだからその優しさに甘えてしまっている。
「みーま、夜久さん練習で疲れてるんだからあまり引っ張り回さないの」
「してないもん!やくさん〜」
「おお、…よっと、」
「わーい!!だっこうれし〜!やくさんちからもち〜!」
「夜久さん!もう美真も重いですから!」
「全然大丈夫っすよ、な〜美真〜!」
「うん!やくさんだいすき〜!」
「おー、俺も好きだぜ〜」
美真にとって初めてお家に来る大人で男性。めずらしくて嬉しくなるのも分かるけど私ですら見たことない顔して笑う娘を見て少し複雑になる。この子に父親がいたら、こうして母親にはしない甘え方をしたのかな。5歳になっても抱っこしてもらって喜んでたのかな。
「(あーだめだめ。こういうことは考えない)」
「ままーごはんまだー?」
「あ、もう並べるだけだから美真お手伝い出来る?」
「うん!」
「夜久さん、そちらに座っていてください」
「はい!」
ご飯を並べ、みんなで手を合わせていただきますをする。美真はやくさん、おいしい?なんて聞いたりして食卓は明るい。夜久さんは美真の拙い質問にも全て答えて会話を広げてくれる。その子供との向き合い方が好かれる要因のひとつなのかもしれない。
食べ終わった後も片付けをしている私に彼は一言謝罪をして美真と遊んでくれた。謝るのはこちらの方なのに、な。家事を終えリビングに向かうとお疲れ様です、と彼が私を迎え入れた。
「あれ、美真は…?」
「お風呂〜って言って行っちゃいました」
「もう…すみません、本当」
「いえいえ。流石にお風呂の誘いは断っちゃいましたけどね」
「美真ったら……本当に夜久さんのこと好きみたいで、帰った後に直ぐに夜久さん次はいつ来るの?明日?なんて聞くんですよ」
「いや〜嬉しいですね。ご飯作っていただいた上に癒しももらっちゃって…本当ありがとうございます」
「感謝なんてそんな!お疲れのところ申し訳ないです」
「いやいや!まじで結構この時間に俺救われてるんですよ、だからまた来させてください」
「…もちろん!」
じゃあ帰ろうかな、と立ち上がる夜久さんを玄関まで見送りをする。靴を履きながらひとつ、聞いていいですかといつもより真剣な声に思わず背筋がピンと張った。
「美真のお父さんってここにはいないんですか?」
「……はい、ここにも、どこにもいません」
「……そ、うなんですね」
「美真の家族は私だけなんです。だから日本人で男の人とこうして関わりをもったのが初めてだった上に夜久さん、お優しいから美真も大好きなんだと思います」
「……………」
「こんな話、すみません」
「いや俺が聞いたことなんで!寧ろありがとうございます」
「感謝なんてそんな」
「じゃあ俺が辻川さんを好きになっても問題ないですよね」
「……え?」
「おやすみなさい」
おやすみ、なさい。と返した言葉は扉が閉じる音に遮られてしまっただろう。
好きになっても問題ない、って……どういう意味?