あの日々に戻りたい、だなんて


「ママぁ!きょうもやくさんこないの!?」

最近仕事が終わり幼稚園にお迎えに行き、家に着くとこればかり。やくさんは?やくさんは?明日は来るかな?何で来ないのかな?
美真が夜久さんのことを気に入ってて一緒にいたいってなること、とても嬉しいと思っていたけどこうともなれば別だ。夜久さんに告白をされて、振ってしまった。今思うと贅沢な話、だと思う。かっこよくて優しくてプロ選手で何より美真を大切にしてくれる人がこんな私を好きだと言ってくれたこと、もう今後の人生でないだろうと思う。
それでも29歳になる私にとってもう一度恋愛をするということがなかなか一歩踏み出せない、寧ろ恐怖に感じていた。


「夜久さんは忙しいから来れないんだよ」
「やだぁ!じゃあみまがあいにいくから!」
「だめ、迷惑になるでしょ」
「ならないもん!」
「あっ美真!」

美真はふてくされて自分の部屋へと戻ってしまった。こうして娘と対立するのはこれまでほとんど無かったので思わずため息をつきどうしたらいいのか悩んでしまう。聞き分けの良い、優しい子だ。これまでずっと恐らく母親しかいない状況を察してか私が困ることはしてこなかった。

「少し、近くなりすぎたかなぁ」

1回目、ご飯をうちではなくお届けしていたらこうならなかったかもしれない。なんてそんな後悔今更しても仕方ないのは分かっていた。それに美真にとって夜久さんとの出会いは大きいものだったということも分かっている。
このまま告白を受けて、夜久さんとお付き合いをしたら美真の為にもなる。理解は出来るけど、やっぱり直ぐに首を縦に振る勇気はまだ私には無い。















「パーティー、ですか」
「はい、チームのご家族の方々も含めた懇親会のようなものです。それが夜にありますので、練習が終わりましたら正装にお着替えいただきましてこちらの場所まで来られますか?」
「あーわかりました。結構お堅い感じですかね?」
「いえ、お食事を取りながら交流を深める形式のものなので気軽に考えてくださればと」
「辻川さんは行かれるんですか?」
「……私は、夜は家に居なければならないので。語学の面で不安であれば別のスタッフがおりますのでご安心ください」
「…そっか、了解です」

とても業務的、だとは思う。パーティーにはチームのメンバー家族の他にスポンサーの方々も来たりして結構色んな出会いのある場所だ。夜久さんにとっても、いい出会いがあればいいだなんて人の色恋を言うほど私は偉い人間じゃない。

「辻川さん、」
「……はい?」
「美真、元気そうですか?」
「……はい、元気ですよ」

それじゃあよかった、そう言って彼は背中を向けて行ってしまう。言いたい、本当はあなたに会いたくて喧嘩してしまうほど美真に余裕がなくて、私も……あの日々が戻ってくればいいのに、と思っていると。それが無神経なことだというのは分かってるからこそ追いかけて手を伸ばしたくなる衝動を殺して私も背を向けた。