やはり彼はスターだった
夜久さんとお付き合いを始めて1ヶ月程が経っていた。彼のサポート業務に入るのも今月が最後になる。そして今月は彼にとっても大きな出来事があった。
『辻川さん!俺次の試合出られるって!』
「すごい!おめでとう!」
『明後日、まあ練習試合なんだけどレギュラーに選ばれた。絶対結果残す』
「うん、応援してるね」
『おう!それでさ、もし辻川さんと美真が予定なかったら休日なんだけど見に来れない?』
「えっ」
『2人が来てくれたら俺ぜっったい頑張れる』
そんなの、お誘いされること自体嬉しすぎる話だ。実はまだ夜久さんがバレーボールをしてる姿を見たことがなかった。彼が最も輝ける舞台、絶対に見たい。
「もちろん行く、けど…公式試合じゃないなら私行けなくないかな?」
『あー身内は行けるんだって!』
「み、身内……」
『身内だろ?付き合ってるんだし』
付き合ってるだけで身内と換算されるのか、その線引きが難しいなぁ…とぼそぼそ言いつつも夜久さんに身内判定されてることが嬉しくて照れ隠しが出てしまう。もっと素直に喜べればいいのに、年齢や歳の差を気にしてしまう自分がちょっと憎い。
『あー身内なら名前呼びにするか』
「え、」
『じゃあ次会う時みのりって呼ぶから、辻川さんも衛輔って呼ぶのに慣れといて』
「え、あ、え」
『じゃあ明後日の詳細LINEしとく、おやすみ』
「お、やすみなさい」
衛輔…衛輔………衛輔……………
その日はもう彼の名前を頭の中で何度もループした。
試合当日。
「美真、マフラーして?寒くて風邪引いちゃうかもしれないから」
「うん!ママ、やくさんたのしみだね!」
「……うん、楽しみだね」
無事試合の見学を見ることが許された私たちは2回席に着席をした。体育館は外と同じくらい寒くて震え上がるけど不思議と心がぽかぽかしてる。楽しみと緊張でいっぱいだ。
「あ!ママ!やくさんいた!」
「いたね、美真、選手が集中出来ないから静かにするんだよ」
「はぁい」
コートに出てきた彼はもう初めてロシアに来た時の彼ではなく楽しそうにチームメイトと話していて安心した。外国人は平均身長が高い、そんな中でも彼は今回選ばれた。その存在意義をこれから私は知ることとなる。
「またとったーー!!」
「…す、ごい……」
「すごいねえ!やくさんかっこいいねえ!」
相手の矢が放つようなスパイクが何度も何度もポーン、と天井へと上がる。全て拾っているのは色違いのユニフォームを着た夜久さんだ。湧き上がる歓声は全て彼に対する賞賛。チームメイトがスパイクを決めるとみんなに頭をぐしゃぐしゃとされ輪の中心で笑っている。
美真が何度も何度も夜久さんかっこいいと言い興奮するのがよく分かる。というかこの会場の誰しもが彼をそう思っているだろう。
「まま!やくさん、かてるかなぁ?」
「……うん、絶対勝てる」
「おめでとうしないとだねえ!」
「そうだね、…おめでとうだね」
コートに立つ彼を見て少しだけ遠く感じたのはきっと、三十路手前のシングルマザーという肩書きのせいだろうとズキズキする心臓を押し殺した。