何度でも、何度でも


「やくさーん!!」
「おー美真ー!!見にきてくれたか!」
「うん!やくさん、ボールぜんぶポーンって!すごかった!!かっこよかったー!!」
「ありがとな〜!……みのり、来てくれてありがとう」
「っう、ん…お疲れ様、すごくいい試合だった」
「かっこよかった?」
「かっこよかったってママいってたよ!ねーまま!」
「そ、だね。かっこよかった、です」
「はは!敬語!よかった〜みのりたちにそう言われるとほんとまた頑張る気になる、また見に来てよ。次は本番で」
「またやくさんのバレーボールみたい!ね!まま!たのしみだね!」
「…ね、楽しみにしておこうね」

ああ、恥ずかしい。けど美真のおかげで自分の伝えたい思いが少しずつ開示されていく。チラリと彼を見ると嬉しそうに笑っていてありがとうと言われてしまった。お礼を言うのはこちらのセリフなのに。

「じゃあ私たちはこれで、」
「え?あ、あー…の、今日そっち行っちゃダメ?」
「……あ、えっと」
「いいよ!みま、ままといっしょによるごはんつくるの!」
「おーそうかえらいな!……平気?」
「う、ん……夜ご飯、何かリクエストある?」
「ん〜……生姜焼きって作れたりする?」
「うん、大丈夫」
「じゃあそれ頼む。……みのり、後で話そう」

美真に聞こえない程度の小さな声でそう言われ、私の少しの心境の変化に気が付かれてしまったということに仕事でのポーカーフェイスは私生活に全然発揮されないなと落胆する。

「ママ?どうしたの?いかないの?」

夜久さんが控室に戻って行った後もぼーっとその場で立ち尽くしていたけど美真に問いかけられはっとする。行こっか、と手を取り悶々とした気持ちの中スーパーに行き食材を買い込む。生姜焼きだけじゃ物足りないから、他に副菜を作らないと。エネルギーになるもの、エネルギーになるもの………

「ママ、これは〜?」
「…うん、これにしよっか」
「ママげんきなぁい、どうしたの?」
「ううん、元気。元気だよ、ちょっと考え事してただけ」
「そっか!おうちかえってやくさんとごはんたべればもーっとげんきでるよ!はやくかえろう!」
「…そうだね、」

私が勝手に劣等感を感じていても、もうこの子から夜久さんを引き裂くようなこと簡単には出来ないんだろうなぁと苦笑いを浮かべ美真の手を握った。

家に着くなり晩御飯の準備に取り掛かるものの、みまもごはんつくる!と言って聞かないので簡単なことをお願いしつつ美真の様子を見ながらやっているといつもの倍は時間が掛かる。そうしているとあっという間に時間は刻々と過ぎていった。
ピーンポーン、インターフォンが鳴るとほとんどの準備を終えた状態だった為ふぅ、と息を吐くと美真がバタバタと走りながら彼をお出迎えしたようで玄関からキャッキャと楽しそうな声が聞こえた。

「さっき振り」
「うん、いらっしゃい」
「やくさんおててあらおー!みまもね、ごはんつくったの!」
「おーまじか、すげぇじゃん!」
「えへへ、すげぇでしょ!」
「あ、やべすげぇって言葉遣いはよくないな、すごい、すごい!美真はすごいなぁ〜」

2人の会話が可愛くて思わず心が綻ぶ。洗面所から戻ってきたところで用意したキャベツの千切りがのった生姜焼きのプレートに厚焼き卵、お新香と味噌汁に白米という日本の定食屋メニューをテーブルに並べると夜久さんはキラキラした目で食卓を見つめていた。

「おおお!これが食べたかったってやつ全部ある!やーめっちゃ嬉しい!」
「…よかった」
「ママ、みまがやったのどれだっけぇ?」
「美真はキャベツとお味噌汁の中に入ってるじゃがいもと玉ねぎを洗ってくれて、卵かき混ぜてくれたんだよね」
「すげ……、すごいなぁ!美真ありがとな〜!」
「うん!おいしい?」
「超うまい」
「ちょーうまい〜!!」
「あっやべちがうすごく美味しい!美真!」
「ちょーうまい〜!!」

思わず笑みが溢れると夜久さんも同じように笑った。もう、私もただ素直になればいいのかな。うじうじと余計な事考えないで、3人で笑えるならそれでいいし、それがいい。
バレーボールをしてる夜久さんはかっこよかった、すごかった、今度バレーボールしようね、……贅沢すぎることを言う美真の言葉を全て肯定しながら出した料理を全て平らげた彼は食べ終わった後の美真に歯を磨かせ片付けをしてる私の代わりに寝かしつけまでしてくれた。お互いにひと段落がつくと再びダイニングチェアに座った彼に私はお茶を差し出した。

「ありがとな」
「ううん、こちらこそ。美真、大はしゃぎでごめんね」
「いや嬉しいよ。あ、俺のよくない日本語が美真に伝わっちゃってごめん。気をつけようとは思ってんだけどな〜」
「ううん、大丈夫だよ。私もたまに美真の前で言葉崩しちゃうことあるから」
「そっか、……昼間の、なんか俺しちゃった?」
「夜久さんは悪いこと何もしてない!…よ、本当に」
「……衛輔って言ったじゃん」
「あ、…ごめん、慣れなくて、」
「まあそれはゆっくりでいいよ。じゃあどうしてみのりはやたら気まずそうな顔してたの?」
「…………勝手に劣等感感じじゃっただけなの。だから、ごめんなさい、……自分勝手な態度しました」
「……劣等感?みのりが俺に?」

どこに?俺よりみのりの方が全然すげーじゃん。
そう流れるように口にした彼はきっと彼なりの本心だったんだろうと思うけどその事に私自身もびっくりする。何で?私が夜久さんよりすごいことなんて何もないのに。

「子供1人で育てて絶対大変なのに文句ひとつ言わないし、母国じゃないのにここのこと聞けば全部分かるし、落ち着いてて優しくて料理が上手くて、俺なんかの何倍もみのりはすごいよ」
「……、そんなの、」
「それに俺、…あーこれは言うか悩むけど!言うけど!年下って事に実は結構…気にしてて、みのりが頼りにくいって思ってんじゃないかって……思ったり…いや!頼りまくってた俺が何言ってんだって感じかもしれないんだけど!」
「……………」
「突然よそよそしくなるくらいなら俺に全部言ってほしいんだ。原因が俺にあるなら直す努力もする。……みのりを幸せにしたいんだ、俺」

彼があまりにも優しく笑うから、私は自然と流れてくる涙を止めることが出来なかった。なんて幼稚だったんだろう、なんて自分勝手な考えで避けようとしたんだろう、……彼はこんなにも真っ直ぐに私を見ていてくれたのに。
泣いている私を見た夜久さんが泣かないで、と席を立ち私の前に来ると優しく抱き締めて背中をゆっくりとさする。温かい手、この手は特別な手なんだと背中に感じる熱を覚える。恐る恐る、彼のトップスの裾を握るともう一方の手で私の手を包み込んだ。

「ごめん、なさいっ……」
「……いいよ、もう謝るなって」
「、わたし、…勝手に、コートに立つ夜久さん、をみて、遠い存在みたいに感じちゃって…、私より全然若いし、かっこいいから、……もっと綺麗で可愛い子、と、付き合ったり遊んだり…出来るのになぁって思ったら、」
「ばーか。……もーー、ほんっとバカ!頭いいのに!バカだろ!」
「っ……だ、って、」
「だってもくそもないから!俺が好きなのはみのり!あーくそ、こんなこと言うの恥ずかしいんだからな!」
「……う、ん」
「でもみのりが不安なら何度でも言う。みのりが好きで、一緒にいたいのもこうやって抱きしめたいのも、全部みのりだけ。……だからそんなこと思わないで」

見上げてみると思っていたより情けない顔をした彼が私の頬に手を添え吸い込まれるように2人の唇が重なった。