焼肉に拉致られる


【翔陽 バレーボール選手】
で検索をしてみた。すると思っていたよりも遥かにすごい人だったみたいでネットには大賞賛の言葉がずらりと並んでいた。写真も多く流出しており、その全てが先日出会った彼の顔と一致した。
あの日からもう2週間が経っていた。もちろん連絡はしていない。日向さんはわたしよりも5歳年上だった。正直そんな風には見えなかったけど、スクロールする写真の半分以上が笑顔でまるでAVなんて見てませんみたいな顔をしているようにも思えた。


初めて、だった。わたしが三宮葉月として生きていることがバレたこと。そしてそもそも男性にああやって言い寄られるようなこともこれまでの人生で経験してことがなかった。まあわたしのAVを見てくれてるくらいだから、そりゃわたしで抜いてくれてる、んだろうし好きというのもエッチしてるわたしが好き、なんだろうから話しても楽しいことなんてひとつもないのに。


『もう少し話したい』


そう言った日向さんの目はメラメラとした性欲を剥き出しにした感じではなくて、まるで中学生が女の子に勇気を出していう甘酸っぱいもののようにも見えて、少し心臓がトクンと動いた。でもそれはきっと誰だってあの距離で話されたらそうなるに決まってる。日向さんだから、というわけでは絶対ない。


「いらっしゃい、あらみのりちゃん」
「!!みのりちゃん!」
「っ、……ひな、た、さん」
「!俺の名前……、調べてくれたの?」
「あ、う、だって、自分でバレーボール選手だって言ったから、……ネットで調べたらたくさん、てかwikiもありました」
「嬉しい。つーか連絡!全然くれないし!」
「……するとは言ってないです」
「まあでも会えたしいいや、ごめんおばちゃん!みのりちゃんご飯食べないでこのままもらってく!お金は2倍払うから!」
「えっ」
「いいわよ、日向くんの分だけもらうからね」
「いいって本当!じゃあこれまでのおまけ代として受け取ってほしい。じゃあ行こっか」
「日向さんまって」
「ありがとね、日向くん、みのりちゃんのこと大切にしてあげるんだよ」
「おう!」


わたしは離されないよう日向さんに腕を掴まれそのまま行くよ、と声を掛けられ歩き出す。というかほぼ早歩きだ。そもそもわたしと日向さんとじゃ歩幅が違うわけで、女性平均身長のわたしの脚力と現役スポーツ選手の脚力が同じだと思わないでほしい。定食屋さんを出て角を曲がったところでわたしが小走りになっていることを日向さんはようやく気が付いてくれた。


「うわ、ごめん!早かった?」
「は、早すぎ、ます」
「ごめんごめん!あ、あと時間平気?」
「へ?」
「あそこでご飯食べるくらいの時間しかない?」
「え、と別にこの後は何も予定は」

って何わたしは正直に自分の予定晒してるんだ、と思った時にはもう遅くて。ニコッと笑った日向さんはじゃあ行こっかと腕から手をギュッと握ってきた。人と手を握ったのは幼少期両親と迷子にならないようにと繋いだぶりだ。日向さん、さすが日本を代表するバレーボールの選手だ。女の人にきっと慣れてるんだろう。変に意識をすると手汗が出てきてしまいそうでわたしは考えないようにと繋がれるまま抵抗はしなかった。






「焼肉……」
「あ、イタリアンとかの方がよかった?」
「いえ、お肉好きです」
「よかった!なーに食べよっかな〜みのりちゃんも好きなの頼んでいいからね!」
「……日向さん」
「ん?」
「わたしと話したいことってなんですか?」
「え」
「わたし、と話して楽しいこと、ありますか?」


きっと日向さんも話しづらいやつだなって、とっつき難いやつだなってなって幻滅してしまうだろう。人に興味がないくせに口だけは達者で、案外よく喋るけど本心が何考えてるか分からなくて怖い。学生時代ずっと言われてきたことだった。だから1人でいた方が楽だったし友達も友達と呼べる人はたった1人だけ。日向さんみたいないつでも周りに人がいて明るくて人当たりが良さそうな人、わたしと合うはずがない。


「楽しいかどうかはさ、とりあえず焼肉してから決めようよ」
「焼肉?」
「そ!店員さん呼ぶけど決まった?」
「あっえと…大体は」
「じゃあ頼もう、すみませーん!」


日向さんは手際よく注文をしわたしも続けて注文をした。彼は笑いながらお願いしまーす!と店員さんに言えば店員さんもニコニコと笑ってその場を去った。きっとここのテーブルに持ってくる人たちはみんなああやって笑顔になっていくんだろう。ふと日向さんに視線を向けるとまたこの間のようにわたしのことをじっと見つめていた。
日向さんは以前会ったときもわたしのことをずっと見ていた。正直少し恥ずかしいからあまりジッと見続けないでほしい、というのが本心だ。


「みのりちゃん、名字は?」
「………悪用する気ですか?」
「しないしない!ただみのりちゃんのことちゃんと知りたいなぁと思っただけだよ」
「……内緒です」
「内緒かぁ〜〜じゃあ年齢はってハタチだっけ」
「あ、ちが、いや、あ」
「あ、サバ読んでる?」
「………21です」
「じゃあ俺の5個下だ。みのりちゃんは部活とかやってた?」
「部活……はしてないですね」
「帰宅部?」
「うーん、月に1回だけやる料理部に入ってましたよ」
「へえ!じゃあご飯作れるの?」
「人並みです。今も実家に住んでるのでご飯は親が作ってくれますし」
「実家か〜、今大学4年だっけ?」
「はい、就活生でした」
「はは、それ3作品目のタイトルに絡めて言ってる?」
「あ、いやそういうわけではなかったけど……」
「嘘まじ?俺超キモくない?タイトルまで覚えてんのかよって思った?」
「……………少し」
「くぅ〜〜だよなぁ、でも好きだから許して」
「、ひ、日向さんってそんな簡単に好きとか言うのチャラいですよね!!」
「え!?チャラい!?」
「チャラいですよ!!手も直ぐ繋ぐし女慣れしてます!!」
「え" ご、ごめん……俺妹いるからなんか腕引っ張るよりは手繋いだ方がいいかなって思って……」


女慣れしてると思ってた日向さんが途端に顔を赤くして頭を掻きちょっとまって見ないで!と手を伸ばしてわたしの視界を遮ろうとする。なんだ、女慣れとかじゃないのかも。お待たせしました〜とタイミングよくお肉が届きわたしたちはとりあえずご飯を食べることにした。日向さんは焼肉の焼き方にこだわりある派ない派?とかタレ甘い派?辛い派?とかなんてことない事ばかり聞いてきたりして……ただその会話は何だか普通の人っぽくてなんか、いいなって思った。



「はーー流石に腹一杯だーー!」
「わたしもです、ご馳走様でした」
「急に連れ出しちゃってごめんね」
「いえ、………わたしも、楽しかったので」
「え!本当!?」
「………はい」
「っし!!また誘っても…って連絡先!知らねえ!」
「……ふふ、じゃあ教えます」
「え、いいの?」
「はい」
「っしゃ!すげー嬉しい!ありがとな!!」
「…………日向さん」
「ん?」
「また、誘ってください」
「!!おう!誘う!じゃあまた!」


駅でわたしが改札に入るまで日向さんはずっと笑顔で手を振っていた。わたしも少しだけ控えめに手を振りかえした。
まだ出会って2回目の、しかも自分のAVを見ている人とこんな風に楽しく食事をしてしかもその後直ぐに解散ってなんか変な感じ。