何者でもない普通の幸せ(完)


日向さんとの報道が報じられた日はSNSのトレンドが1週間前同様に埋められた。相手の女性がわたしということは分からないようになっていた為三宮葉月の名前が挙がることはなかった。
日向さんはというとAV女優やその界隈に大きな賞賛を受け結果としてバレーボール界隈の印象自体が上がりチケットの売上もバレーボールファンも増えたということだった。

わたしはその月にしれっと出した4作目の引退作品を出し自身のSNSを最後に更新した。そのツイートには500件以上のリプライが付き惜しまれながらも引退をした。







ーーーそして現在。


「日向さん!就職先決まりました!!」
『まじ?!すごいじゃん!おめでとう!』
「ありがとうございますっもうめちゃくちゃ嬉しいです……」
『前言ってた化粧品メーカーだっけ?』
「はい!これで4月から無事社会人になれます」
『今度お祝いしないとだな〜』
「日向さんはどうですか?調子は」
『そりゃあ絶好調だよ!あと数時間後には試合始まる』
「あっすみませんそんな時に電話しちゃって」
『いやむしろ元気出た、絶対勝つ!』
「はい、テレビで見ますね」
『ん。じゃあ帰国したらまた連絡する』


日向さんは大きな国際大会の日本代表として選ばれ今は韓国にいる。世間の噂もかなり落ち着きわたしたちへの関心も薄れてきて万全な変装をすれば夜には2人で手を繋いで歩けるくらいにはなった。
もう付き合って半年程になるだろうか、もっとずっと前から一緒にいるような感覚さえするほど日向さんの隣りは居心地が良かった。



その日の夜。



『この場面できました!!伝説の変人速攻!!日向影山烏野高校コンビの弾丸アタックー!!!』
『いやぁ本当にこの速さは天下一品ですね!!』
『場内敵チームもあっぱれなのかアウェーの地なのに会場が湧き立ちます!!』
『そしてここで影山のサーブ、こちらもいいですからね〜』
『よし、崩しました!しかしやはり韓国もセッターがいい!アタッカーへのしっかりとしたトスがあがり、っわーーーー!!ここで!日向!日向のスーパーレシーブです!!そして影山、誰に上げっっ!!!日向ーーーー!!!自分で上げて自分で打ったーーー!!!!』
『影山も性格がいいのか悪いのか、信頼があってからこそのプレーでしたね!』
『興奮が止みません!!ラスト1点、このまま攻め切れるか!!』


手に汗握る展開。バレーボールがこんなにも面白いものだと日向さんがいたから知れた。


『サーブここでも攻める!返ってきた!チャンスです、さて影山、どこを使う、日向か、日向なのか、っおおおお!日向を囮に使い木兎のバックアタックーー!!っとこれは取られました、しかし素晴らしい連携!』
『次凌ぎたいですね』
『セッター誰を使う、チャンがあがってき、たああああああ!ここでまさかの!日向によるブロックシャットアウトーー!!!』
『いやあまさか172cmがブロック!!』
『あはは、日向も笑っております!日本大勝利、今日は気持ちがいいくらい日向翔陽の活躍が光りました、それではダイジェストです』


「すっ、ごすぎ…」


何者でもない、未来も希望も、楽しさも苦しみも特になかったわたしが、


『日向選手!本日MVP獲得しましたおめでとうございます!!』
『ありがとうございます!!やったー!!』
『本日素晴らしいご活躍でした!!きっと日本で待つ彼女さんも見ているんじゃないですか?』
『はい!!試合前連絡しました、やったぞー!!日本戻ったら直ぐに会いに行く!』
『公開惚気やめや!』


何かしたら変わるのだろうか。かと言って変わりたいというわけでもないけど、誰の目にも止まらないわたしという存在を知って、認めてほしい。

そう思っていたけどーーもう何もいらない。


「ばかっ」


わたしはこの人がいればそれでいい。
そう思える人と出会ってしまったわたしは世界中の誰よりも幸せです。





fin.