アップデートの積み重ね(宮侑)
人間は誰だってミスをする。
完璧な人間なんてこの世にはいない。
間違えて、間違えて、人は学んでアップデートをしていく。同じ過ちは犯さないようにと。しかしそれでもミスをする。だって人は、人なのだから。
「ちゃう!目が覚めたらホテルいただけなんや!ほんまに何もしとらん!神に誓って!」
じめついた梅雨が明けようかという時。チームのリーグ戦が終わりオフシーズンに入ったMSBYブラックジャッカル所属であり日本代表のプロバレーボール選手である宮侑は一応私が今付き合ってる彼氏であった。
もう侑とは出会ってから長い時間を共にしている。それこそ今や懐かしい稲荷崎高校の同級生で、彼は当時から絶大なカリスマ性…、とまではいかないけど色んな意味で学校中を沸かす熱中の渦にいる人間だった。そんな彼と、教室の隅で友達と絵しりとりがブームでずっとこそこそ仲間内で笑っていた私が付き合うことになるだなんて稲荷崎にいる時は想像もしなかった。
そして目の前でその宮侑が土下座をしながら情けなくも嫌や嫌やと、駄々を捏ねて別れの言葉を否定するなんて誰が想像できただろうか。
「すまん、ほんまに反省してる!反省してます!もうお酒は飲み……、程々に!許容範囲内にします!せやからもう一回チャンスをくれ!」
「………」
「なんか言うて、……ごめん、でも俺が好きなんお前やから。俺は、」
「3回」
「………ハイ」
「わかってるよね」
「ハイ、分かってます!俺が酒でヘマした回数です!」
「うん。1回目はモデルさん、週刊誌に腰に手を添えて頭を撫でられてる姿。2回目はうちまで直接綺麗なお姉さんと来た。そして3回目はホテルで女の人が私の電話に出た。」
「……………」
「浮気のバレ方を変えてくるところは成長してるってことなのかな」
「ちゃう!浮気ちゃうねん!」
「もう私じゃなくてよくない?」
思ったよりも低い声が出た。
もう侑の浮気まがいの飲みの席での過ちは何回も聞いてきた。恐らく私が知らないだけでまだあるんだろうと思う。
最初こそそれで一喜一憂して泣いて悩んで苦しくなっていた。でもまだ好きだったから、まだ人として侑の学んでアップデートをする力を信じていたから許してきた。けど、三度目の正直という言葉より二度あることは三度あるという言葉が侑の中では勝ってしまった。それによって私の侑を好きでいる気持ちはずるずると下がっていった。
「みのりがいないとおれ、」
「勘違いしてるんだよ」
「かん、ちがい…?」
「私と長い時間一緒にいすぎたから私がいないと不安になるだけなんだと思う。でもそれは違うよ、侑の周りにはたくさんの人がいるしきっと素敵な相手はすぐ見つかるよ」
「なんでそんなこと言うねん、俺は!俺はお前が」
「ごめん、今月中には家探して出てくから。今日から少しだけ高校の同級生として居候させてください」
「待ってくれ、………俺にもう弁解の余地はないんか」
「弁解も何も、侑に何言われてももう期待出来ない」
付き合って5年、同棲して2年。慣れ親しんだ家も今や息苦しい。何も言い返さなくなった侑の横を立ち私は自分の部屋に戻った。
職場から20分以内の場所で家賃も手頃で日当たりがいい場所がいい。駅から家までも出来れば10分以内に行けたらいいなぁ。条件を追加し家を探すことはわくわくして楽しかった。早くいいところが見つかれば1週間ほどでここを出ていけるかもしれない、頑張ろう。そう思っているとコンコンと扉がノックされた。当たり前だけどそんなことする人今ここには1人しかいない。
「酒、やめる」
「……もういいって、侑は好きに生きなよ」
「絶対飲まへん」
「………私別に侑のやることを制限したいから言ったんけじゃないのに、そういうこと言われると逆に萎える」
「っ、じゃあどうしたらええねん」
「どうもこうも、もう私も侑への気持ちがなくなってきてるから無理だよ」
「じゃあまた好きにさせればええんやな」
「 、は?」
「俺はお前が好きや。酒で失敗してるだけで浮気はしとらん。ほんまや、ただ酔っ払うとどうしても自我が保てなくて近くにいる女みんはお前かと思ってしまうみたいでずっとみのりの名前呼んでるってチームメイトも言っとる。証言させてもええ」
「な、 」
「俺は大人になってもあの頃と気持ちは変わらないままや。でもな、あの頃とは違う。俺はあの頃、みのりに気持ちを伝えられんかった。好きやって言えんかった。………でも、今はちゃう。ちゃんと目え見て言える」
侑と視線が合う。彼からこんなにも熱っぽい視線を向けられたのはいつ振りだろうか。思わず視線を逸らそうとすればみのり、名前を呼ばれ手を取られる。そして私の耳からフェイスラインを大きな手で囲いながらゆっくりと顔を上げられると今にも泣きそうな子供みたいな顔をした侑がいた。
「好きや。ほんまに、みのりのことしか考えられん」
「、………ご、めん。でももう、」
「何度でも言う。何度でも好きにさせる。俺はアホやからな、完璧にはなれん。でもみのりを失わない為なら何度だってなんだってやる。そういう覚悟持ってここにいんねん」
「っ…………」
「別れてもいい、けどまた付き合うて。俺のこと、好きになってや」
アップデートされた侑は完璧な人間から程遠いのに、寧ろどんどん遠のいていくのに、どうしてこんなにも私の心を揺さぶるのが上手いんだろう。いっそ悔しくなるほど、心の底から憎めれば、嫌いになれればどれだけ楽になれるか。目の前の男の肩に顔を埋め小さく涙を流しながら侑なんて嫌いだ、と声を漏らし小さな抵抗をした。