「っくしゅん、」
「…とりあえず入れ。部屋あっためるから。」
「…うん。」
かれこれ30分近く玄関で立ち話をしていたが、1月の寒さはさすがに堪えたようで、私は渋々履いていたショートブーツを脱ぎ、一歩家に入ると床暖房の床が既に温かくてびっくりした。リビングに入るととんでも大豪邸で、私は思わずキョロキョロと周りを見渡してしまった。
「ココアでいいか?」
「あ、うんありがとう。」
「もう少しであったかくなるはずだから。」
「…ありがとう。」
影山くんは顔をそむけ、広いキッチンでマグカップをレンジに入れていた。それにしても本当にどこもかしこも凄い。まるで映画でも見ているようだ。
「あ、これ…。」
「ああ、去年集まった時みんなでバレーしたんだ。」
「そっか。日向全然変わらないね。」
「ああ。」
「これは?」
「これは今のチーム。高校の頃この人とはライバルで、」
写真を見ながら一生懸命説明してくれる影山くんはとっても楽しそうで、レンジの音にも気がつかないくらい私に話をした。ああ、そういえば高校の頃、一度だけこういうことがあったかもしれない。
高校1年 冬
「影山くん…委員会、終わったよ。」
当時は確かじゃんけんに負けて図書委員になってしまって。しかも男子の相手が怖かった影山くんで。先生に無理やり言われて部活の時間削って委員会に連れてかれたんだけど、時間になるまで影山くんは席で爆睡。私は呆れるより先に早く終われという気持ちが勝っていた。
でもいざ終わると影山くんにどう声を掛ければいいのか戸惑っていた。このまま放っておくわけにもいかないので、蚊が鳴くような声の小ささで声を掛けてみるが、まあ起きず。
「影山くんっ部活はいいの…?」
「…ん、バレー…あ?」
「あ、えっと、おはよう。」
「…ここどこだ?」
「図書室だよ。委員会だったから。でももう終わったよ。」
「…やべ、寝てた。」
「うん。だね、でも私やっといたから大丈夫だよ。影山くん部活でしょ?片づけも少しだけだし私やっとくね。」
「…辻川さん、ありがとう。」
「う、うん!」
影山くんはのそっと起きて、椅子を引いて立ち上がる。変な寝方をしていたせいか、顔に痕がくっきり付いていた。その姿が面白くて大笑いした記憶がある。
「影山くんっ痕!ふふっ、あはは!」
「は?え、なに。」
「顔にね、痕がすごいの!あはは、寝てたのバレバレだね。」
「まじか。つーか辻川さん笑いすぎだろ。」
「ごめっおかしくって、ふふっ」
「…そんな変か?」
「ん〜大丈夫。ごめんね。あ、影山くん、部活頑張ってね!応援してる!」
あまり喋ったことのない影山くんに対して、最初で最後のエールだったと思う。彼はこの時のことをずっと覚えててくれたというのだろうか。そう思うと、あの頃と変わらない顔で喋ってる目の前にいる彼が、少し愛おしく思えた。