31 sideT
「わたしね、生まれつき心臓が悪いの。」
心臓が悪い。シンゾウがワルイ。心臓が悪いとどうなるんだ?いまいちピンと来なかった。
「激しい運動はもちろん、生活習慣の乱れとか疲れが溜まってくると普通の人より多く心臓に負担がかかっちゃってね。ほっとくと心臓止まっちゃうんだ。」
「……、」
「だからこうやって定期的に病院に来てるの。今日も定期健診。あまり良くなかったから、入院。」
「…心臓が止まるってことは死ぬってことだよな。」
「…そうだね。」
ゾッとした。今目の前にいる辻川さんが死ぬことは考えられなかった。でもきっと彼女はずっとその現実と向き合いながら、これまで生きてきたんだ。俺は話を聞いただけで怖くなってしまったのに、辻川さんはいつからこういう気持ちで生きてきたんだろう。
俺に出来ることって、何だ?
「俺、……、」
「こんなこと言われてびっくりしちゃうよね。」
「……。」
掛ける言葉が見つからない。適当なことを言えば逆に辻川さんを傷つけるだけだ。でも何て言えばいいか分からなかった。
「…困らせちゃった、ね。」
「…いや、あの、」
「ごめんね。だから、影山くんはこんなところ来てないでバレー、頑張っていてほしいんだ。」
「……。」
「それが私の願い。影山くんにできることだよ。」
こんな綺麗な笑顔が、他にあるだろうか。もっと見ていたいのに、涙が零れてしまいそうで俯いた。何もできない自分がもどかしくて、爪が食い込むくらい拳を握りしめた。
そんな俺に気がついたのか、辻川さんは俺の手を上から優しく握った。小さくてあったかい手だ。
「この手から、私の大好きなバレーが繋がれる。大切な手を傷つけないで。」
「っ…くっ、っぅお、れ、」
「いつも好きって言ってくれてありがとう。私に、夢と希望を見させてくれて、ありがとう。」
俺の方こそ、感謝しかないのに、涙が止まらなくて何も言えなかった。