「は?」
「…みのりちゃんには言わないでって言われたけど、私は孝支に言わないままサヨナラはできないと思ったから、」
「嘘だよな?」
「…嘘だと信じたいよ、母さんだって。」
俺は夜ごはんの途中で家を飛び出した。みのりがこの街からいなくなる?そんなことあってたまるか。何で今更東京に行っちゃうんだよ。嘘だって言ってくれよ。
いつものようにインターフォンを押すと、みのりが出た。
「孝支くん!?ど、うしたの…?」
「…ハァ、ハァ…、」
「…走ってきたの?」
「…っ、うそ、だよな、」
「……。」
「東京行くって嘘だよな!?」
柄にもなく大きな声を上げてしまった。でも信じたくない、という気持ちと嘘だと言ってほしい一心だった。
「ごめんね。」
「っ謝ってほしいんじゃない、謝ってほしいんじゃないんだよ、」
「……。」
「俺は、みのりがこの街からいなくなることが嫌だ。…自分勝手なこと言ってるってわかってる。でもみのりがいなくなるのは正直きつい、」
「…孝支くん、」
みのりを失うのが怖い。病気のことは知らない。でもいつだってそういう覚悟はある程度してきた。些細な1日も大切にしようって思って今まで生きてきた。
だから一時だって東京に行ってほしくない。傍にいてほしい。影山とそういう関係になっても、俺は特別な兄貴枠だから、みのりを大切に思う気持ちは変わらない。
これからも緩やかな生活が続くと思っていたのに。
「約束、してたの。」
「……、」
「お父さんと。本当はね、私が無理言ってこっちに残してほしいって願ったんだ。お父さんは周りから見たら娘を残して行った仕事一筋の冷血人間に見えるけど、最後まで一緒に東京に住もうって言ってたんだ。」
「……。」
「だから、もしこっちで1人で住んでみて、20回病院で入院するようなことがあったら、潔くこっちに戻ってきてくれって。」
「……でも、」
「約束は、守るためにあるんでしょ?それを教えてくれたのは孝支くんだよ。」
小さい頃に、言った気がする。みのりはすぐに約束を忘れるから、守らない約束は意味がない、約束は守るためにあると。そんなこと今更言ってくるなんて、ずるい。
「俺との、約束は?」
「……。」
「ずっと一緒にいるって言った。小さい頃、それも覚えてるだろ?」
「…覚えてるよ。でも、永遠なんてない。そう教えてくれたのも、孝支くんだよ。」
「っクソー!俺は余計なことばっか言ってんなあ!」
「……。」
「やだ。いやだ!…そう言ってももう遅いんだろ?」
「…うん。」
「…影山には?言った?」
「言わないつもり。」
「お前それは、」
「お願い。…言わないで。これだけは、お願い。」
「……みのりはさ。大好きな人が急に目の前からいなくなったらどうなる?」
「……。」
「お前が言いたくないのもわかるけど、相手のことも考えてやれよ。俺からは言わないけど、…ちゃんと考えてやれ。」
お前らの幸せは、俺が1番願ってるんだから。どうか2人の後悔のないように。