待機室から私は移動しエスカレーターに乗って搭乗口に入る手前、声が聞こえた気がした。
「みのり!みのり!!」
「…う、そ……、」
「おい!!いくな!!」
「っ…影山、くんっ、」
烏野高校バレー部のジャージを着たまま、肩で息をしながらこちらに向かってきたのは会いたいと願ってしまった影山くんの姿だった。
夢だったら、覚めなければいいのにと幾度と思った。
「おま、っほんっと急なんだよ、ハァ…ハァ…、」
「……ごめんなさい。」
「俺じゃなかったら、ぜったい、間に合ってねえし、」
「…うん。」
「てか、東京って、っなんだよ、」
息を整わない状態で影山くんは私のことをゆっくりと見つめた。この目を見ると、嘘がつけなくなる。
「お父さんと約束をしてて。…東京の病院で、治療に専念することになったの。」
「……じゃあ、辻川さんは、治すために戦いに行くんだな。」
「…戦い、」
「俺から逃げるとか、そういうんじゃないんだよな。」
そういえば影山くんと話すのはあの病院で会った時ぶりだった。もしかすると影山くんはその時のことを引きずっていたのかもしれない。でも、そんなこと一切ない。
「違うよ。」
「……。」
「影山くん。本当にありがとう。影山くんと出会った全ての出来事、絶対に忘れないよ。」
「俺も、忘れない。」
「またきっと、会えるよね。」
「ああ。春高も勝って絶対そっち行くからバレー見に来い。」
「うんっ…絶対、絶対行く。」
「無理すんな。しんどくなったら連絡しろ。」
「うんっ、」
「俺にできることがあったら何でもする。バレーだって頑張るし、東京に会いに行くことだって、」
「影山くん、」
「なんだ?」
「…抱きしめて、好きって言って。」
これが、最後だから。
そう言えば影山くんは顔を歪ませて私の腕を引っ張りギュッと抱きしめてくれた。初めて正面から影山くんに抱きしめられた。大きくて、温かくて、背中にギュッと腕を回すと影山くんも少し力を込めてくれた。
「好きだ、」
「…わたしも、好き。」
「っ辻川さんのこと、これからも忘れない。」
「わたしも影山くんのこと、絶対に忘れないよ。」
「これが最後に何かさせない。」
「っ……、」
「辻川さんが好きな気持ちは、この先途切れないから。」
そんなこと言わないで。そう言いたかった。未来に確証が持てない私のことを好きでいてくれるより、影山くんには新しい恋愛をして幸せになってほしかった。
昨日まではそう願っていたのに。
いざ影山くんを目の前にして、まるでプロポーズのような愛の証言をされて尚、彼の気持ちを否定することなんてできなかった。
「影山くんの幸せは、私が1番願ってる。」
「俺もだ。」
「…今、影山くんは、幸せ?」
「……ああ。すっっっげー幸せ。」
「そ、っか。」
「辻川さんは?」
「……幸せだよ。」
私は顔を上げ、影山くんを見ると優しい顔で笑っていた。その瞳に写ってる自分も、同じ顔をしていた。
さようなら。大好きな人。